ウソ夫婦

「おはよう」
颯太が言った。

いつもの風景。冷房の効いたリビングで、ソファに埋まるように座って新聞を読む颯太。

「おっ、おはようっ、ごっざいます」
翠は勢い余って、口が回らない。

颯太が新聞から目を挙げて、翠を見る。それからバカにしたような薄い笑みを口に浮かべた。

「なっ、何?」
「別に……俺、コーヒー」

向こうが冷静すぎる。慌ててるこちらが不利だ。

「コーヒーって、あのねぇ」
翠は拳を振り上げる。「昨日のっ、あれはっ、なっ」

颯太がくすっと笑う。「何言ってんの?」

「何って、あの、その」
「いいからコーヒーくれよ。あと腹が減った」

振り上げた拳を、弱々しく下ろす。

もうちょっと向こうも動揺してると読んだのに、あまりにも普段通りの颯太すぎる。

翠は気持ちを落ち着けようと深呼吸した。ついでにコーヒーを入れる。

ああ、やっぱりいいように使われてる。くやし。

テーブルに食事を並べて、挑むように颯太の目の前に座った。

「それでっ」
翠は勢い良く話題を振った。

逃げられないようにしてやる。

「昨日のことを説明してもらいますっ」

颯太はまじまじと翠の顔を見つめる。翠の顔がボッと熱くなるのがわかった。

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