ウソ夫婦

部屋に入ると、翠は急いで冷蔵庫に食品をしまう。颯太は、そんな翠の前に立ちはだかり「誰にでもいい顔するな」と言い放った。

「いい顔って……心細そうにしてたから、仲良くしましょうって言っただけじゃない」
翠は冷蔵庫の冷気を浴びながら、腕を組んだ。

「あの女と、仲良くできるのか?」
颯太がいう。

ずいぶんな言い方。翠は思わず眉を寄せる。

「いい人そうじゃない」
翠は冷蔵庫の扉を力強く閉めて、颯太を睨み上げた。

「違和感を感じないのか?」
「違和感? どこに?」

颯太は大げさにため息をついて、肩をすくめる。

何、そのアメリカ人的な仕草。

翠はむかっときた。

「旦那がいるにもかかわらず、無駄に露出の多い格好だし、俺に色目を使ってきただろう?」

翠は呆れて、口を大きく開けてしまった。
「あまりにも、うぬぼれすぎ」

「お前は、何にも気づかなかったのか?」
「気づくもなにも……」
翠は笑いながら、颯太の肩を思わず叩いた。

「世界の全女性が、自分を見てると思ったら大間違いだし」

颯太はしばらく翠を見つめた後、再びあの腹の立つ肩をすくめる仕草をしてから、離れていった。

あの仕草、神経逆なでする。

翠はぷーっと膨れながら、颯太に背を向けた。

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