ウソ夫婦

颯太とぜんぜん違う。

翠は小さく揺れる車内で、驚いていた。

同じFBI局員でも、こんなにも違うなんて。これでちゃんと私のことを警護してたのかしら。

「ミドリ」
ハンドルを握りながら、ジェニファーが声をかけてきた。

「ん?」
「今日、シバタヒロト来たね」

翠はびっくりして「え」と声を上げた。

「どうして知って? あの時ジェニファーどこにも……」
「側にいなくても、見てるのよ」
ジェニファーが当然というように言った。

「ミドリ、偶然?」
ジェニファーがちらりと翠を見る。

「ぐ、偶然なのっ。本当に私もびっくりして……」
「そっか」

そのままジェニファーは黙り込んだ。翠はなぜか気まずくて下を向く。

悪いことをしたわけじゃない。でもなんだか居心地が悪いのはなぜ?

「ヒロトって、どんな男?」
ジェニファーが聞いてきた。

「どんなって……優しいいい人だと思うけど」
翠は答える。

そう、本当に優しくて、いい人。突然目の前から消えた私に、文句の一つもなかった。

「なんでそんなことを聞くの?」
連絡先も聞かなかった。もう会うこともない人なのに。

「なんでって? 当たり前じゃない、容疑者リストにのってる男よ」
ジェニファーが言った。
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