ウソ夫婦

「仕事は?」
翠はふと気になって尋ねた。

「俺、今在宅で働いてるんだ」
「……製薬会社の仕事で?」

二人の専攻は同じだった。

「いや、ウェブ制作」
大翔はそう答えて、恥ずかしそうに笑った。「俺も、勉強したことと関係ないことで、仕事してるな。君のこと、言えない」

「親の金でアメリカにまで勉強しに行って、それで全然違うことしてるんじゃ、親泣かせだ」
「……そうね」
翠は同意した。

翠の居場所は、親も知らない。それこそ本当の親泣かせだろう。

おにぎりとサンドイッチを買って、二人で炎天下に出た。

誘わなくちゃいけない。
『今度ごはんでもどう?』そうやって。
気軽な感じで。なんの裏もない感じで。

でも翠の口から、その言葉が出てこない。二人は二三歩歩き、それから翠は「……じゃあ」と小さい声を出し、大翔に背中を向けようとしたその時。

「なあ」
大翔が声をかけた。

「……何?」
翠は背の高い大翔を見上げた。

「今度、一緒に食事でもしないか」

翠は驚いて黙る。

「ああ、なんていうか、下心とか、そんなんじゃないから」
大翔が慌てたように、付け加えた。

「ただ懐かしくて。それだけ」

翠は「うん」とうなづいた。

「一緒にごはん食べよう」
そう言った。
< 87 / 197 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop