帰り道



ハルに送ってもらいあたしはそのまますぐに準備をしてギターを抱えて家を出た。


あんなに心配して送ってくれてるのに悪いけれどこれもあたしの生きがいのひとつだから‥。


駅に着くといつも通りいつもの場所で歌を歌う。


今日のお客さんは今から不倫相手に会いに行くんだと苦笑いを浮かべつつやっぱり嬉しそうな顔をしてるサラリーマンの村上さんだけ。


こんな日でもあたしの歌を聞きに来てくれる村上さん。今日と昨日ではやっぱり違う想いを抱えて聞いているのかな。


曲の終わりを見計らったかのようにいいタイミングでこの駅を利用している常連のお客さんのひとりである女子大生の山口さんがあたしの前に立つ。


「あ、山口さん!!こんばんは」


「こんばんは。あっそうそう凛ちゃん!!今日は曲を聞きに来たんじゃなくてね、夜から雨が降るって言ってたから教えてあげようと思って」


「えっ、ほんとですか?じゃあそろそろ終わろうかな」


「そうだね、残念だけど僕ももう行くよ。雨の降らないうちにね。」


「あら村上さん、今日会うんですか!!いってらっしゃい」


「なんだか二人とも僕を甘やかしすぎだよ。僕は許されないことをしてるんだから怒ってくれていいのに」


年若く結婚歴もそう長くない村上さんはとても純粋に奥さん意外の人に恋をしてしまった。


その想いの誠実さを知っているあたしも山口さんも不倫が悪いことだとわかっていながらも責める気にはなれなかった。
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