目には目を、歯には歯を
ジャックがこの国に来てから、3ヶ月あまりが経とうとしていた。

この国は、平和で、事件も何も起こらない。

事故すらほとんど起こらないのだ。

ニュースで流される話題は、政治や経済、スポーツ。

事件や事故は、ほとんど起きていない。

毎朝新聞を読むジャックは、毎朝不審に思っていた。

いくら小さな国とはいえ、事件がゼロに等しいなど、あり得ない。

特に事件大国からやって来たジャックにとって、これはかなりの驚きだった。

よほど警察が優秀なのかと思いきや、警官の数はかなり少ない。


事故の件数が極端に少ないのも、最初は謎だった。

だが、それは車に乗ってみて初めて判った。

ジャックは国際免許を持ってはいたものの、車を持っていなかった。

ガソリンスタンドでの仕事をする際に、用があって車を運転してみて初めて、事故が少ない理由を悟った。

……この国での制限速度が、あまりに遅いのだ。

そして、車を運転する人は、歩行者を決して傷つけないように、細心の注意を払って運転している。

間違っても、不注意で事故が起こることのない様に。





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