Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~
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01 突然のプロポーズ

 新緑の季節を迎えた頃、研修を終えた新入社員が各部署へ配属された。
 大学卒業後大手ゼネコンに就職して入社八年目になる私は新入社員の教育に追われ、定時後に自分の仕事に取り掛かる日々。残業続きの日々を送っていた。

「……うん、うん。でもまだ今日は帰れそうもないから……うん、ごめんね」

 給湯室に向かう途中、気分転換に寄ったトイレでかかってきた電話に出て会話を終え携帯をスカートのポケットにしまった。
 今日はお茶当番だった。会議や来客で使われた湯のみや社員用に朝用意したお茶を入れたポットの片付けが残っている。
 五時間も残業してまだ残る雑用。今日が金曜日で良かった。体力はすでに限界だけど明日が休みだと思うとまだ頑張れる。
 私はトイレを出て給湯室に向かった。
 ……が、給湯室のドア前で思いも寄らない立ち往生をくらってしまった。

「あんっ……だめですよぉ、こんなトコロで」
「こんな時間だ、誰もいないよ……だからいいだろ?」

 中から男女二人の甘い囁き声が聞こえる。
 こっちはこんな時間まで仕事して疲れているのに何をしているのかな!?
 本格的にはじまってしまって中に入れなくなる前に追い出そうと思ってドアのぶに手をかけた時だった。
 中から女性の甲高い喘ぎ声のようなものが聞こえてドアのぶにかけた手をさっと引っ込めた。
 さ、さ……さっそくはじまった!? こんな場所で!?
 遅くまでの残業は危険だーー!
 私はくるりと方向転換すると全速力でその場をあとにした。
 そのまま給湯室での雑務を放棄して会社を出た私は、携帯で通話しながら自宅まで向かっていた。

「そう。思ったより早く会社出られたから。……うん、今どこ? 分かった、すぐ帰る」

 電話口の向こうの相手はさっきトイレにいる時に電話をかけてきた人物だ。その人物が今ちょうど私の自宅付近にいることを知って歩く速度を早めた。

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