Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~

08 変化する存在意義

 夏場の強く照りつける太陽にはうんざりするけど、同じくらい夏場に降るジメジメとした雨も嫌いだ。梅雨はとっくに明けているというのに連日の雨。ただ、今日は一週間ぶりの晴れ。夕方からくずれるらしいけど、午後から仕事で外出予定だからなんとか持ってほしい。

「川島さーん。室長が探してましたよぉ?」
「室長が?」

 始業前、ネットで天気予報を見ていたところ珍しい人からの突然の呼び出し。仕事でほとんど接することなない室長が私に何の用なんだろう?
 室長を探して席を立つと、事務所の出入り口で室長とばったり鉢合わせ、そのまま打ち合わせ室へと連れられる。あまり仕事では接したことのない人だけど、社員旅行では接する機会が多かった。大らかでいざという時頼りになるお父さんみたいな人だ。とても感じのいい人。

「ごめんね、朝から呼び出して」
「いえ。でも……私になにか?」

 室長は「えっと、実は……」と言いにくそうに苦笑いを浮かべて一呼吸を置くと本題を切り出した。

「川島さん、社員旅行で社長と一緒だったよね?」
「はい」
「社長が川島さんのことを気に入ったみたいで、大阪にこないかって」
「……はい!?」
「あ、気に入ったっていうのは変な意味ではなくて、よく気が効くし、女性一人で男性に囲まれても物怖じしない態度が気に入ったとかで。今ちょうど本社人手が足りないみたいで……」
「だ、男性って……それはみんな知ってる人たちばかりだったから……」
「そ、そうだよね」

 突然の転勤宣告?
 頭の中が少々パニック気味だ。
 本心は行きたくない。今の仕事にはやりがいを感じているし仲間や上司にも恵まれている。でもはっきりと断ってしまってもいいものかと判断に悩む。社長……に言われてるんだし。
 すぐに答えを出せないでいると室長が「え、悩むの?」と少し驚いた様子で言った。
 そう、だよね……。断れるわけ……

「僕はてっきり断ってくれるものだと……」
「え……?」
「君が頑張っているのは色々と聞いているよ。だから川島さんが抜けたらみんな困るよ」

 思いもよらなかった室長の言葉に呆然とする。そしてじわじわとこみ上げてくる喜びに、やば、泣きそう。必要とされているってことだよね?

「って、僕がこんなこと言っちゃいけないね。とりあえず、一日考えて返事は明日くれるかな」
「あの、私……!」
「川島さんにとってチャンスになることは間違いないから」

 チャンス。
 その言葉にここに残ると心の中で即決した気持ちがいったんストップする。

「本社勤務になった場合の仕事内容を簡単に説明すると……」

 気がつけば、真剣に室長の話に耳を傾けていた。

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