Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~

10 恋慕の情



 就職を機に一人暮らしを始め、入社三年目くらいの時に始めて寝込むほどの風邪を引いた。

「私、死ぬの……?」

 体温計が示す40度という生まれてはじめて見た数字と高熱にうなされて、意識が朦朧としているのも手伝って酷く悲観的になっていた。

「死ぬわけねぇだろ、風邪くらいで。薬飲んどきゃ治るよ。薬は?」
「……ない」

 夜中だったから家族には連絡が繋がらなくて、仕方なく近所に住む永瀬を呼び出したけど一度は無視され、しつこく電話とメールを入れたら来てくれた。……手ぶらで。

「薬もないしこのまま熱は上がり続けて……ねぇ上司に伝言頼める? 外注先への発注あさってまでにお願いしますって……」
「……今は仕事のことは忘れたら?」
「あと、今までお世話になりました。先に、逝くことになりましたって……」
「本当に、いっぺん死ねばおかしくなった頭も元に戻るんじゃねえの?」
「酷い! こっちは生きるか死ぬかの瀬戸際……」

 勢いよく起き上がったけど、酷い眩暈に景色が反転して布団に沈む。

「……おい。大丈夫かよ」
「頭痛い……気持ちわるーい……死ぬー!」

 わぁわぁわめいたこんな恥ずかしい姿、家族以外に見せるのは始めてだった。友達にも見せられないや。でもそれだけ、永瀬には心を許していたのだと思う。

「仕方ない。薬買ってきてやるよ。他に欲しいもんは?」
「アイス。チョコ味」

 この後コンビニに行って戻ってきた永瀬が、薬とバニラ味のアイスを買ってきたことに腹を立てて少し熱が上がった。チョコって言ったのに……!
 そういえばちゃんとありがとうって言っていなかったかもしれない。でも、永瀬だってこの間熱出した時、シュークリームを買って行ったら文句を言われたしおあいこだよね?



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