Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~
 携帯のディスプレイを見るたびに、未読メッセージありの表示があるような気が。
 昼休み、食事を済ませ冷房で冷え切った室内で震える私は外に出ていた。9月ももう終わるというのに残暑は厳しく日中はまだまだ暑い。それでも震えるほど寒い室内にいるよりはまだマシ。生暖かい空気にほっとする。
 私は会社近くの公園で木陰にあるベンチを選んで座り携帯をいじっていた。
 秀則さんと食事をしてから今日でちょうど一週間。一日10通以上のメールのやりとりも一週間毎日続いている。出来るだけ小まめに返信する様にしているけど……さすがに一週間続くと苦痛を感じるように。

「……来週の放送も楽しみですね……っと」

 メールの内容は他愛のないものばかり。その日の出来事や見たテレビ番組の感想など……会って話せば一瞬で終わるようなものばかりだ。
 返信メールの送信ボタンを押してふぅと一息つく。
 メールでの秀則さんはまるで別人。絵文字多様でテンション高め。別の人物とメールでお話しているようだ。気弱そうで内気に見えた彼も初対面で緊張していただけで実は明るくよくしゃべる人なのかもしれない。
 突然社長から紹介され、一度食事に行き、その後メールのやりとりを続けている奇妙な関係。これは、いったいいつまで続くのだろうか。
 そろそろ事務所に戻ろうと立ち上がったところで手に持つ携帯が震えた。私がたった今送ったメールに対する秀則さんから返信だった。早くない!?

「あ……、川島さん……?」

 携帯に目を落としながら溜息をつく私の背後から突如声をかけられ振り返った。
 振り返った先に立つ人物を見て絶句した。
 最後に会った時に比べると髪が短くなって、少しだけ痩せたようにも見える。優しくて温かな雰囲気はあの頃のまま。
 現れたのは元上司の杉浦さんで彼は……

「どうしたの? こんなところで……」

 突然の元彼の登場に驚いて声が出ない。そんな様子の私に彼も一瞬戸惑いを見せたけどすぐに笑顔を見せた。

「もしかして、今日は出張でこっちに来てるとか?」
「……えっと」
「俺今そこのコンビニで弁当買って会社に戻るところなんだ。一緒にどう?」

 会社は目と鼻の先。大通りを挟んだ向こう側。
 でも目に入った私を無視するわけにもいかない。彼なりの気遣いなのだと思う。
 私は杉浦さんについて、少し後ろを歩いた。

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