Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~

03 5年前の口約束

 5年前の私は、今の自分とは別人のように違った。
 毎日同じことの繰り返しの仕事にやりがいを感じることもなく、むしろ苦痛で、周りが結婚ラッシュだったことも手伝って好きな人と将来を誓い合って寿退社することだけを夢に見ていた。
 当時、私は杉浦さんと言う職場の上司と付き合っていた。年上で、落ち着いていて、包容力のある優しい人。そんな彼と付き合って一年目の記念日を迎える直前に、彼の本社のある大阪への転勤が決まった。
 私は当然一緒についてきてくれって、プロポーズの言葉を期待していたのだけど……

「おい……いいかげん泣き止めよ」

 一生分の涙をこの時に流してしまったのではないか。止めどなく流れる涙はなかなか止まってくれなかった。
 転勤が決まった彼から期待した言葉はもらえなくて、私は遠距離になることを理由に杉浦さんにフラれてしまった。

「だってぇ……結婚できたらいいねって話したりもしてたんだよ? それなのに……」
「はは、そんなのただの口約束だろ? 本気じゃなかったんだよ」

 この時、フラれた直後に一緒にいたのが永瀬だった。たまたまウチに立ち寄ったのが運の尽き。永瀬を長時間拘束して私はひたすら泣き続けた。

「どうしたらいいの? 高校の友達はデキ婚してすでに一児の母、大学の友達からも続々結婚式の招待状が届いて……」
「もう結婚してんの? 早いなー。友達って俺らと同い年だよな? ということは24、5歳……」
「みんな相手が年上なの!」

 杉浦さんも5つ年上だったから、結婚を意識して付き合ってくれていると思っていたのに……

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