恋する時間を私に下さい
……どうしてそんな事になったか?
それは私にも分かりません。
ただ、あの引っ越しの挨拶に伺った日が、彼にとっても、私にとっても、きっと『運の尽き』だったんです。



「…やぁ!おはよう!友坂さん!」

ギクリッとする声に、毎朝、振り返ります。

「お…おはようございます……館長…」

ギクギクしながら返事します。
緒方さんはすました顔で、私の側を通り抜けようとするけど…


「…今夜はすき焼きにしよう…」

ぽそっと指令が下る。


「す…すき焼き…?」

真夏でもするの…⁉︎ …と言いたくなりますが…


「わ…分かりました……」


否応無しに引き受けるしかありません。
そして、必ず、一言付け加えられる。


「俺んとこで作れ!…今夜は修羅場だっ!」

(ひ、ひぇぇぇ…!)

背筋の凍る言葉を吐いて笑ってく。

『修羅場』……

あの日、上司の素顔さえ知らなければ、私は自由でハッピーな一人暮らしを、きっと続けてた筈です…


なのに、今は逆。
毎日毎日、家政婦のようにこき使われる。
料理、洗濯、掃除に、副業の手伝いまで任される……。

…どうしてこんな事になったのか理解できない。
自分のことが、何もできないまま、あっという間に日付が変わる…。


……ねぇ、誰か…

この状況を私と変わって下さい!

…私には、1日が24時間じゃ足りません!

せめて、もう1時間!あと30分でもいい!


…自分だけの時間を…

私に下さいぃ……!

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