ある日突然……
第一章 思いがけない……
「はぁ~っ」
廂で頬杖をついて、大きなため息を漏らす
。
「姫さま、そんな大きなため息を吐いてたら
幸せが逃げちゃいますよ。」
乳姉妹の紫が呆れ顔で私を見る。
「だって、暇なんだもん。」
私は綺麗に整えられた庭先を見渡すと、手摺にうつ伏せる。
「暇?」
紫がテキパキと部屋を片付けながら、私を振り替える。
「……。」
「暇なら、手伝って欲しいんですけど?こっちは、猫の手も借りたい位ですよ。」
返事を返さない私に、紫が避難がましく言い募る。
「母屋の方が騒がしいけど、何かあったの
?」
母屋への渡殿を忙しなく往き来する女房達。
宴でもあるのかな……?
「はぁ~っ。今宵は、若様の出仕のお祝いにお殿様が宴を開かれるって仰ってたでしょ。
」
「吉良の……。あぁ~、そう言えばそんな事を言ってた。」
「まったく!」
プリプリしながら、仕事を片付ける紫。
そんなに起こらなくたっていいじゃない。
吉良の祝いか……
二月前、元服が終わるとすぐに、従五位の侍従として出仕し、この二月の間毎日毎日、宮中での出来事を聞かされ続けて来た。
今日は宮中で蹴鞠があっただの、主人にお声をかけて頂いただの、東宮様がどうのとか楽しそうに話す弟……
それに引き換え裳着を済ませた私は、毎日毎日贈られてくるのは顔も見た事ないのに、「ずっとお慕いしておりました。」だの「一目御目もじできれば、思い残す事はない」だ
の、勝手に死んでろッ!って感じの文ばかりが文机の上に山積みになるばかり……
「きゃあ~っ。」
紫が山積みのゴミをひっくり返しして悲鳴を上げる。
ほんと、邪魔。
「もぉ~っ、姫さま。少しは片付けて下さい!」
散らかったゴミ……基、文をぐしゃりと掴んで乱暴に袋に棄てる。
「あ、あの……紫さん。姫さま宛のお文を……」
一緒に片付けをしていた母君付きの女房が恐る恐る紫を嗜める。
「どうせ、返事を書くつもりなんてないの。このまま放置してたらこの部屋は文で埋め尽くされちゃうだけよ。」
チラッと私の方を向くと、文句無いわよね?とばかりの視線を送ってきた。
「スッキリするから、ドンドン捨てて。」
とおぜん!とばかりにワシャワシャと文を鷲掴みにしてポイポイと捨てて行く。
「何で女になんて産まれて来たんだろう……」
どんどん片付いてスッキリして行く様子を眺めていると思わず本音が、ポロリっ。
振り返ってこちらを見る紫。
「だって、ほんの二月前までは吉良や仲の良かった友達と庭先で蹴鞠や的当てやったり、双六したりして楽しかったのに…。裳着の儀式なんてしたくなかった。打ち掛けなんて着せられて、やれ箏の和歌だの、女らしくなさいだの……もうウンザリ。」
ほんと、泣きたくなってくる。
「今までが、あり得ない状況だったんです。
良いですか?摂関家の流れを汲む右大臣家の姫君が、童姿で外を駆け回り、弓だの毬だの
。お殿様と北の方様が姫さまを甘やかし過ぎてたんです。」
「紫…。」
「良いですか、由良様はどんなに頑張っても男にはなれないんです。」
「そんなに力一杯、グサグサくる事言わなくてもいいじゃない。私だって男になれるなんて思ってないよ。けど、屋敷の中の狭い世界しか知らずに生きて行くのかと思うと……
つまんないなって、退屈な人生だなって。
男に産まれたかったなって…思っちゃうの。
紫は、そう思った事ない?」
「ありません。そんな事考える暇なんてありませんよ。そこにいる手の掛かる姫さまがいるかぎり。」
そう言うと、またテキパキと他の女房達に指示を出しながら仕事を始めた。
あ~ぁ、何かドキドキ、ワクワクするような事が起きないかなぁ~
廂で頬杖をついて、大きなため息を漏らす
。
「姫さま、そんな大きなため息を吐いてたら
幸せが逃げちゃいますよ。」
乳姉妹の紫が呆れ顔で私を見る。
「だって、暇なんだもん。」
私は綺麗に整えられた庭先を見渡すと、手摺にうつ伏せる。
「暇?」
紫がテキパキと部屋を片付けながら、私を振り替える。
「……。」
「暇なら、手伝って欲しいんですけど?こっちは、猫の手も借りたい位ですよ。」
返事を返さない私に、紫が避難がましく言い募る。
「母屋の方が騒がしいけど、何かあったの
?」
母屋への渡殿を忙しなく往き来する女房達。
宴でもあるのかな……?
「はぁ~っ。今宵は、若様の出仕のお祝いにお殿様が宴を開かれるって仰ってたでしょ。
」
「吉良の……。あぁ~、そう言えばそんな事を言ってた。」
「まったく!」
プリプリしながら、仕事を片付ける紫。
そんなに起こらなくたっていいじゃない。
吉良の祝いか……
二月前、元服が終わるとすぐに、従五位の侍従として出仕し、この二月の間毎日毎日、宮中での出来事を聞かされ続けて来た。
今日は宮中で蹴鞠があっただの、主人にお声をかけて頂いただの、東宮様がどうのとか楽しそうに話す弟……
それに引き換え裳着を済ませた私は、毎日毎日贈られてくるのは顔も見た事ないのに、「ずっとお慕いしておりました。」だの「一目御目もじできれば、思い残す事はない」だ
の、勝手に死んでろッ!って感じの文ばかりが文机の上に山積みになるばかり……
「きゃあ~っ。」
紫が山積みのゴミをひっくり返しして悲鳴を上げる。
ほんと、邪魔。
「もぉ~っ、姫さま。少しは片付けて下さい!」
散らかったゴミ……基、文をぐしゃりと掴んで乱暴に袋に棄てる。
「あ、あの……紫さん。姫さま宛のお文を……」
一緒に片付けをしていた母君付きの女房が恐る恐る紫を嗜める。
「どうせ、返事を書くつもりなんてないの。このまま放置してたらこの部屋は文で埋め尽くされちゃうだけよ。」
チラッと私の方を向くと、文句無いわよね?とばかりの視線を送ってきた。
「スッキリするから、ドンドン捨てて。」
とおぜん!とばかりにワシャワシャと文を鷲掴みにしてポイポイと捨てて行く。
「何で女になんて産まれて来たんだろう……」
どんどん片付いてスッキリして行く様子を眺めていると思わず本音が、ポロリっ。
振り返ってこちらを見る紫。
「だって、ほんの二月前までは吉良や仲の良かった友達と庭先で蹴鞠や的当てやったり、双六したりして楽しかったのに…。裳着の儀式なんてしたくなかった。打ち掛けなんて着せられて、やれ箏の和歌だの、女らしくなさいだの……もうウンザリ。」
ほんと、泣きたくなってくる。
「今までが、あり得ない状況だったんです。
良いですか?摂関家の流れを汲む右大臣家の姫君が、童姿で外を駆け回り、弓だの毬だの
。お殿様と北の方様が姫さまを甘やかし過ぎてたんです。」
「紫…。」
「良いですか、由良様はどんなに頑張っても男にはなれないんです。」
「そんなに力一杯、グサグサくる事言わなくてもいいじゃない。私だって男になれるなんて思ってないよ。けど、屋敷の中の狭い世界しか知らずに生きて行くのかと思うと……
つまんないなって、退屈な人生だなって。
男に産まれたかったなって…思っちゃうの。
紫は、そう思った事ない?」
「ありません。そんな事考える暇なんてありませんよ。そこにいる手の掛かる姫さまがいるかぎり。」
そう言うと、またテキパキと他の女房達に指示を出しながら仕事を始めた。
あ~ぁ、何かドキドキ、ワクワクするような事が起きないかなぁ~