ある日突然……
「由良っ!。」

無理やり十二単に着替えさせられた私が脇息にもたれ掛かっていると、吉良が入って来た


「わぁー!すごく綺麗じゃない。」

吉良があんまり嬉しそうに言うから、私も満更でもないのかな?……なんて思っちゃう。

「吉良も初夏の風情のある衣装が、よく似合ってる。」

すっかり公達らしくなった同い年の弟にちょ
っとだけ見惚れちゃった。

「ありがとう。今日は一緒につるんでた友達とか、由良の婿がねになりそうな公達が沢山来てるよ。」

イタズラっ子みたいに笑う。

「婿がね?え~ッ!やめてよ!」
私は身を乗り出して抗議する。
冗談じゃない。何が嬉しくて慌てて結婚しなくちゃならないの! 

「冗談じゃないよ。ねぇ、暁」

吉良が振り返って見た先には左大臣家の幼なじみがいた。
吉良と一緒に出仕した暁の狩絹姿を見るのは初めてだった。
本当に別人みたいで……ちょっとショックかも

何か言わなきゃと思っているうちに、暁が先に口を開いた。

「右大臣様は、そのつもりで年頃の公達をあんなに呼ばれたんじゃないかな。
由良もそう言う事を考える歳になったんだよ。裳着も済ませた姫が何時までも独り身なんて、体裁が悪いだろ。結婚は、由良一人の問題じゃないって事位、わかってるだろ?」

大人ぶった物言いに、ちょっとカチンッ!と
くる。

「暁って随分と古い考え方をしてるのね。女性だって女官として後宮でバリバリ仕事をしてるのよ。結婚だけが、選択肢じゃないわ。

不満顔の私の顔色を見て、少し慌てたように吉良が口を開いた。

「父上も義母上様も可愛い由良を身近に置いて置きたいんだよ。下手に宮中に参内なんかさせたりして、東宮妃に!なんて話になったりしたら困るんだよ。僕だって、由良が後宮になんて上がって、今みたいにいつでも会えなくなるなんて考えたくもないよ。」

「吉良……」

私は感極まって、吉良の手を握りしめた。 
「私だって、吉良と離れ離れになんて……考えたくもないわ。」

「そうだよ。だから、手近な所で決めちゃえば良いんだよ。」

「そうよね。結婚って言ったって何時も同じ屋根の下に暮らす訳じゃないもの。弟か兄が一人増えたと思えばいいのよね。」

な~んだ、結婚なんて大した事ない。
私の生活は今だって十分暇なのんだもの、これから先もこのまま何事もなく終わっていくだけだわ……
でも、それってかなり寂しいかも…

「はぁ~ッ。由良はともかく吉良がそんな事言うなんて。由良も散々、結婚するなら好きな男じゃなきゃって言ってたくせに。
右大臣様が由良の女御入内の話をうやむやにしたって聞いた時は、まぁ右大臣様の溺愛ぶりからして想定内だと思ったけど。」

「えっ~ッ!!女御っ!」

吉良と私は声を揃えて叫んだ。

「なんだ。吉良、お前は知らなかったのか?
主人から内々に話があったのに、その場で断ったって父上が言ってたぞ。我が家は今上に、姉二人も入内させて、姫一人。東宮様に差し上げたいと思っても最後の妹姫はまだ七つ。
勿体無い、勿体無いと仰ってた。」

「私が、東宮様の女御? ぷっ、あり得ないわ。この私がよ?」

驚いて最初は声も出なかったけど、落ち着いてくると、可笑しくなってきた。
自慢じゃないけど、つい最近まで吉良や暁とこの庭先を走り回っていたのよ。
(もう少しお肌の色が白くおありでしたら、この御装束ももっと映えましたのに……)と乳母の
咲が嘆いていたのを思いだす。

「何で?由良は、右大臣家の一人娘だ。当然、東宮妃候補に名前が上がる。内大臣家も、大納言家も入内させたくてヤキモキしてるって言うのに。黙って座って箏や琴を弾いていれば、一応深窓の姫に見えるんだ。后がねに選ばれたって……別に可笑しくないよ。
まぁ、精々頑張るんだね。」

最後は冷たい視線を私に向けるとスッと立ち上がると部屋を出て行った。

「あッ!ちょっと待ってよ、暁~。じゃあ、由良、また後でね!」

慌てて親友の後を追う吉良の後ろ姿を見つめる私は、暁の感じの悪い態度にかなり不愉快になった。そして、間もなく始まる宴にどん
~と気が重くなった。







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