朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~
「ひよりちゃん?」

そんなことをぼーっと
思い出していた陽和に,
芽衣子は声をかける。

「あ・・・はい。」

陽和は恋愛と言われて
幼い頃の記憶しか
思い出せない自分に
また情けなさを感じていた。

「無理して
 恋愛しなくったって
 ひよりちゃんなら
 すぐにできるって!」

「・・・そんなこと
 ないです・・・。」

自信なさげに
苦笑いする陽和に
芽衣子は
自信満々の笑顔で
こう言った。

「大切なのは『すき』よ!」

「すき?」

「そう『隙』。
 この人は恋愛する
 余白があると思わせる
 ことが大切。

 完璧だったり,
 鉄壁だったりしちゃ,
 ダメってこと。」

「・・・は・・はあ。」

芽衣子の言葉は
説得力があるような
ないような言葉だった。

そんな抽象的なことを
言われても
恋愛経験のない陽和には
さっぱり理解できなかった。

「ひよりちゃん,
 構えすぎなんじゃないかな?」

「・・・。」

陽和は考え込んだ。
構えすぎてるって
どういうことだろう。
やっぱり
恋愛経験のない自分には
よく理解できないと思った。

だけど・・・
守りたい・・・
のかもしれないなと
ふと思った。

朔への・・・思いを
捨てられないんじゃなくて
捨てたくない
守りたいのかもしれない。

どちらにせよ
陽和の恋愛はまだまだ
到底前に進みそうには
なかった。

 ・・・朔ちゃん。
 私・・・
 どうしたら・・・
 いいのかなあ・・・?

本当は頭を悩ませて
いるのは当の「朔」だろうに,
難問にぶつかった陽和は
また心の中で
朔に問いかけていた。
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