超能力者も恋をする


すみれの真剣に話す姿に先輩も納得した様で、一歩下がって出れるように通路を空けてくれた。
「わかった。何もしてやれなくて、ごめん…。気をつけて行けよ。」

「先輩も、気をつけて下さい。色々お世話になりました。」

それだけ言って、すみれは足早に部屋を出て行った。これ以上先輩の顔を見ていられない。
最後に手に持っていた鍵を浮かせて先輩の方に手を一振りする。鍵は真っ直ぐ先輩の元に飛んで行って、ふわりと先輩の手の中に収まった。

「ありがとうございました。」

振り向かないで玄関を出て、急いでアパートから離れる。
少し行った所で振り返って灯りの着いた先輩の部屋をみると、目に涙が滲んできた。
一緒にご飯を食べて、掃除もして、一緒に帰ったりもした。そんな楽しかった思い出が溢れてくる。
(でも、もう終わっちゃったんだ。)
楽しかった日々は終わった。

涙を拭って、すみれは夕暮れの道をプラムまで歩いて行った。
< 126 / 135 >

この作品をシェア

pagetop