赦せないあいつと大人の恋をして
成熟

 大学時代の憧れの先輩 雅也と彩花が結ばれた事も知らず、綾は先日のお見合いも副社長に丁重にお断りして仕事にだけ没頭していた。

 あの男の車の助手席にはヘルメットが置いてあった。つまり誰とも付き合っていないという事?
 別に私に変な義理立てする事ないのに……。ナンパでも、同棲でも、結婚でも、さっさとすればいいのに。余計な心配も、気にしてくれるのも迷惑だ。
 私は御局になるんだから……。

 兄に会ってから時々、実家にも顔を出すようになった。実家では今まで通り、何も変わっていないように過ごした。母や義姉の作る料理は、どれもとても美味しくて満足だった。

 父は「仕事はどうだ?」とか聴くけれど細かい事まで聴いて来ないから助かる。

 体は傷付いたかもしれないけれど心まで傷付いたりしない。誰でも経験する事なのだから……。寧ろ遅いくらいなのだから……。今時の高校生の方が、よっぽど経験値は高いのだろう。そんな風潮が決して良いとは思わないけれど……。
 私は私。干渉されたくない。もう四年も経ったのに……。つまらない事に何時までもこだわっているのは私なのだろうか?

 この四年の間に同級生の友人たちも何人か結婚し、子育て真っ只中の友人もいる。時々電話をして来て、みんな口を揃えたように
「独身の綾が羨ましい。お洒落なんてしてる時間も余裕もない」
 と嘆くけれども何故か、その愚痴さえ幸せそうに聞こえる。

 結婚って、そんなに良いものなのかな? 精神的安定、経済的安定、子孫を残す、他に? でも安定するとばかりは言えないだろう。

 早く結婚した友人の中には既にバツイチの子も居て
「結婚なんて懲り懲り。一人が楽でいいわ」なんて言う。
 彼女は、ご主人の浮気にずっと悩まされて来た。幸い子供も出来なかったから、これから青春を謳歌すると言っていた。
 人生いろいろなんだと考えさせられる。

 私の両親は仲の良い方だと思う。冠婚葬祭以外にもよく二人で出掛ける。兄夫婦は子供こそまだのようだけれど五年経った今も新婚夫婦のようだ。私一人くらい生涯独身なんて変り種が居ても別に困らないだろうと思う。

 もしかしたら私は人を本気で愛せないのだろうか。家族以外の他人を自分の事のように思い遣ることが出来ない。心も体も大人に成り切れてない。成熟出来ていないのかもしれない。
< 17 / 107 >

この作品をシェア

pagetop