赦せないあいつと大人の恋をして
フラッシュバック
 私の中でフラッシュバック現象が起きていた。

 明るい昼間の喫茶店。テーブルにはオムライスが……。亡くなったお母さんの作ってくれたオムライスと同じ味の。黙々と食べるあいつの姿が、とても痛々しくて……。自分でも気付かない内に涙がポロポロ零れていた。
「ごめんなさい。私、帰ります」

「綾さん……。送って行くから」

 隼人さんの声も、もう私には聞こえてはいなかった。

 お店を飛び出してタクシーを止めて乗り込んだ。でも、どこへ行けばいいの? ずっと忘れていたのに無性にあいつに会いたかった。

 そうだ。友人が個展を開いたギャラリーの最寄の駅を告げた。しばらく走るとあのマンションが見えて来た。
「ここでいいです」
 料金を払ってタクシーを降りた。


 そしてあの時と同じように私はマンションを見上げていた。暗い空をバックに、それぞれの部屋から灯りがもれて来る。ほとんどの部屋から色とりどりのカーテンを通して暖かな灯り。

 誰も歩いていない歩道に一人で立っている私。空から今年初めての真っ白な雪がふわふわ舞って落ちて来る。ここに来たって、あいつに会える訳じゃないのに……。

 寒い。寒くて堪らない。凍えてしまいそうなくらい。こんな雪の降る夜に何やってるんだろう、私は……。

 そう思った時、ドアが開いてコンビニから誰かが出て来た。
「……早崎?」

「えっ?」

 声が聞こえた方を見て驚いた。あいつがコンビニの袋を手に立っている。

「何してるんだ? こんな寒い夜に……」

「…………」
 どう返事をすればいいのか分からない。

「とにかく来い。また風邪でもひいたら、どうするんだよ」

 腕を掴まれてマンションの方に連れて行かれる。階段を上がって二階の部屋。カードキーでドアを開けながら

「俺、今ここに住んでるんだ。初めて最初から自分で手掛けた仕事だったから思い入れがあって。この部屋だけキャンセルになったって聞いて住む事にした」

 灯りも暖房も付いたままの部屋は暖かかった。

「腹が減ったから肉まん買いに行ってた。あんたも食べるか?」

「いい」

「じゃあ、コーヒー入れるな」

 引っ越して来たばかりなのか部屋の中は綺麗に片付いていた。
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