赦せないあいつと大人の恋をして
あいつのマンション
「ほら、コーヒー。インスタントだけど、あったまるから飲め」

「うん。ありがとう」

 小さなテーブルに置かれたマグカップから湯気が立ち昇り何だかほっとした。

「美味しい。あったかい」
 コーヒーって、こんなに美味しかったんだ。冷え切った体を温めてくれる。

「いつからあんな所に立ってたんだよ」

「そんなに長い時間じゃないわ」

「俺がコンビニに行った時は居なかったよな」

「だから、ほんの少しの時間よ」

「俺、急に肉まんが食べたくなって行ったんだけど、今、全部売り切れて温めるのに時間が掛かるって言われて、店の中で漫画を立ち読みしながら待ってたんだよ。結構な時間、待たせてくれたよ」

「そんなに肉まんが食べたかったの? 温かい物なら他にもたくさんあるじゃない」

「どうしても肉まんが食べたかったんだよ」

 何をムキになってるのよ……。
「子供みたい……」

「俺は、どうせ子供だよ」

「漫画じゃなくて、いやらしい本、喜んで見てたんでしょう?」

「あぁ、そうだよ。あんたみたいな上品なお嬢さんが見たら驚いて気絶するようなのをな」

「コンビニに、そんなの売ってるの?」

「売ってる訳ないだろう」
 あいつは笑ってる。

「もう、人をからかわないでよ」

「別にからかってないよ。そういえば、お見合い、どうなった?」
 真っ直ぐ目を見て聞かれた。

「どうって……」

「付き合ってるのか?」

「時々、会ってるけど……」

「そうか。良い奴なのか?」

「良い人よ。きょうも会ってたのに……」

「会ってたのに?」

「その人が、オムライス食べてるのを見てたら……」

「オムライス?」

「どうしてなのか分からない。涙が出て来て……。そしたら急に、あなたに会いたくなったの……」

「俺に?」
 不思議そうな顔で私を見ている。

 何だか居た堪れなくて、椅子から立ち上がって窓際の方へ行った。
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