赦せないあいつと大人の恋をして
雪の日のありえない告白
 私は南のベランダ側の窓から、さっき立って居た歩道を見ていた。寒い雪の夜に、あんな所からマンションを見ていた自分が惨めだった。何で私が、こんな思いをしなければいけないのよ。考えたら無性に腹立たしかった。

 菅田 龍哉。こんな男のために何で……。私は振り返って……
「責任取ってよ」
 あいつを真っ直ぐ見て言った。

「あぁ。どうすれば君の気が済むんだ? 俺はどんな事でも甘んじて受けるつもりでいるよ。それだけの事を君にしたんだからな」

「弁護士に相談するから」

「うん。覚悟してるよ。君の訴えは全面的に認める。裁判沙汰にはしない」

「責任取ってよ……」
 涙が零れた。

「分かってる」

「分かってない。あなたみたいな最低な男を好きになった……責任取ってよ……」
 私はただ泣いていた。子供みたいにしゃくりあげながら……。

 あいつは、驚きに言葉も出ない様子で私を見詰めている。そして心を決めたように少しずつ私に近付いて来る。目の前で止まって、そっと肩を引き寄せられ優しく抱きしめられた。


     *


「責任取るよ。ずっと君の傍に居る。もう泣かせたりしない。大切にするから」

 俺は、どんなに望んでも手に入れる事の出来ない宝物を抱きしめていた。眩しく輝いていた宝石を勝手な思い込みで俺が傷付けた。取り返しのつかない過ちで彼女を泣かせた。

「君が幸せになるのをずっと陰から見守って行くつもりでいたんだ」


     *


「あなたが私を幸せにしてよ……」

 心の片隅の小さな棘は、この男じゃなければ消す事も出来ないのだろう。どんなに愛されても別の人の傍では、私の傷は癒せないから……。

 自分でも信じられなかった。どうして、あんな言葉が出てしまったのか……。この男の腕の中が、どうしてこんなに心地良いのか……。

 嫌悪感に苛まれ続けて来た今までの日々は何だったんだろう。こんな始まり方……絶対にありえないのに……。

 恋愛なんて感情は錯覚と思い込みで出来上がっているんだと思う。許せない奴が気になる奴になって……。とんでもない男を愛してしまうことだって、きっとあるんだろう。

 始まりは決して普通とは言えないものだったけれど、これから先、私たちは一緒に歩いて行けるのだろうか?
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