赦せないあいつと大人の恋をして
二月
 翌日から、また仕事が早く終わると会社まで迎えに来てくれるようになった。私は、もう誰に噂されようと気にしないで、あいつの車に乗る事が出来る。


 数日経って出勤すると給湯室から、また聞こえて来た。

「ねぇ、やっぱり早崎 綾って菅田 龍哉と付き合ってるみたいよ」

「でも私、聞いたんだけど菅田 龍哉の家って結構大きな建設会社だって。この会社には言うなれば修業に来てただけで、今は専務とかって話よ」

「へぇ、じゃあ、玉の輿って事?」

「何言ってるのよ。早崎 綾の父親だって輸入家具の会社社長よ。玉の輿なんて乗らなくても元々お嬢さんなのよ」

「何だ。お坊ちゃまとお嬢さんが付き合ってるって事?」

「もう、私たち下々の者に、玉の輿のチャンスを残せって言うのよ」

「本当よね。また結婚が遠退いた気がするわ」

「何? 菅田 龍哉を狙ってたの?」

「まぁ、イケメンだし、遊び人だったけど悪っぽい所も魅力だと言えばそうだし」

「へぇ、知らなかった」

「私だけじゃないわよ。意外と居たのよ。菅田 龍哉狙いの女子社員」

「そうなんだ。私はもっと誠実な真面目な人がいいな」

「まぁ、好みは色々だしね」

「そういうこと。さぁ、仕事仕事……」


 そうなの? 知らなかった。あいつ意外とモテてたんだ。



 一月も終わって二月に入っていた。今月、私は二十八歳になる。

「今年の誕生日は、僕と過ごすっていうのは、どうですか?」
 隼人さんは、あんなに優しく言ってくれたのに……。申し訳ない気持ちで、いっぱいになっていた。


 仕事が終わって外に出た。寒い。きょうは、あいつは仕事が忙しくて迎えには行けないとメールを貰っていた。
 
 家の会社に居た頃よりも、やっぱり今の仕事の方が向いているのだろうか。彼が仕事の話をしてくれる時、とても楽しそうだ。

 彼の父親も、大学時代、遊び人だった彼をすぐに会社に入れる訳にはいかない。そう考えて、家の会社で修業をさせていたようだ。それでも彼は仕事には真面目だったものの女の噂は絶えなかった。学生時代のトラウマだったのだろう。真剣に恋愛なんて出来なかった。そう言っていた。

 彼と付き合い始めて一週間。

 マンションまで送って貰う時と、会えない時は夜、携帯で話して分かった。彼はただ寂しかったんだという事実。亡くなったお母さんへの想い。

 もちろん彼が口に出して言った訳ではないけれど私は痛いほど感じていた。お母さんに甘えられなかった分も癒してあげられたら……。
 私の中の母性で彼を幸せにしてあげたいという想いは確実なものになっていった。
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