赦せないあいつと大人の恋をして
声を聞くだけで
 次の土曜日曜は彼は仕事だと言っていた。

 私は久しぶりにマンションで一人のんびり過ごしている。今頃、何しているんだろう。そんな事を考える時間も楽しかった。
 日曜のお昼にはオムライスを作って一人で食べた。美味しいと思うのだけれど……。いつか食べて貰えるかな? お皿を洗い終わったところで携帯の着うたが聞こえた。

「あぁ、俺」
 声を聞くだけで嬉しくなるのはなぜ?

「うん」
 私の声は、どんなふうに聞こえているんだろう。

「仕事、終わったんだ。三十分で迎えに行けるけど出られるか?」

「大丈夫だけど……」

「じゃあ行くから。後でな」

「分かった」
 大変だ。ノーメイクだし着替えないと……。でも何を着れば良い? 何処へ行くのか聞けば良かった。とにかくメイクを済ませ、温かいニットにツィードのスカートを穿いて、ブーツに、お気に入りのスエードのコートをはおって外に出た。

 綺麗に晴れた午後。陽射しは少し暖かいけれど風は冷たい。すぐに彼の車が見えた。私の前で停まって乗り込む。

「お待たせ。食事は?」

「さっき済ませたけど」

「俺も。元さんと食べて来たんだ」

「監督さん元気?」

「あぁ、元気だ。別嬪さんに宜しくって言ってた」

「えっ? 監督さん、知ってるの?」

「最初から、そう思ってたって。君が俺のタイプだって分かってたみたい。付き合い長いからな、元さんとは。子供の頃から可愛がって貰ってたから」

「そうなの。良い人よね。あったかい人柄が見てるだけで分かるもの」

「そう言っとくよ。元さん喜ぶよ、きっと」

「ところで何処に行くの?」

「今からじゃあ遠くは無理だから、ちょっとドライブ」

「うん」

「何処か行きたい所でもある?」

「ううん」
 傍に居られれば、それで良い。口に出しては言わないけれど……。
 こんな気持ち、もしかしたら初めてだったのかな? まともに恋愛した経験もない私にはよく分からない。

 私の隣で幸せそうな笑顔を見せてくれたら、それだけで嬉しいと思う。そんな私と一緒に居たいと思ってくれていたら幸せなんだとそう思っていた。
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