赦せないあいつと大人の恋をして
ひとすじの涙
 それからの一週間。私も仕事が忙しくて定時に帰れた日は、ほとんどないと言ってもよかった。

 夜、眠る少し前に龍哉さんからメールが届く。風邪ひいてないか? 暖かくして寝るんだぞ。そんなメール。もうちょっと甘い言葉を並べてくれても良さそうなものなのに……。なんて思っていたら龍哉さんからの着信が。

「声が聞きたかったんだ」

「うん」

「何か言ってくれないか?」

「なにを?」

「何でも良いよ」

「龍哉に会いたい」

「うん。俺も会いたいよ。綾、愛してる」

「私も。龍哉、愛してる」

「うん。ありがとう。これで安心して眠れるよ。じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」


 そして土曜日。私は、やっと休日。でも龍哉は、きょうも仕事。

「忙しいのかな?」
 ひとり言を呟いて。


 冬の朝……。
 二度寝の気持ち良さは何物にも代えがたい。暖かい毛布の中に潜り込む。きょうは起きなくても良いというのは最高に幸せだと思う。そのまま私はまた眠りに就いた。


 カーテン越しに柔らかな陽射しがベッドまで入り込む。
 ぼんやり目の前に映る光景は……。嘘よ。信じられない……。私の存在なんて気付いてもいない様子の彼……。

 龍哉さんがベッドで知らない誰かを抱いている。その彼女を愛おしそうに抱きしめ『愛してるよ』と耳元で囁く。乱れた長い髪の掛かる背中は、とても美しいキメ細かな白い肌……。『龍哉……』甘えるような彼女の声が聞こえた。
 居た堪れなくて私は耳を塞いだ……。


 目を開けて周りを見る。変わらない私の部屋。

 夢? あれは夢なの?

 その時、私の目から涙がひとすじ零れた。

 そういえば、龍哉さんは毎晩のように女性と過ごしていたという噂。忘れていた現実を思い出した。

「女なんて向こうから寄って来た。何人の男と寝ようが平気な女ばかり」
 龍哉さんの言葉が蘇る……。
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