赦せないあいつと大人の恋をして
気持ちの時効
 二人とも黙り込んだまま龍哉は駐車場に車を入れた。

「お昼だよ。ここのイタリアン美味しいらしいから」

「うん」

 車を降りて店に入った。「いらっしゃいませ」元気な声に迎えられる。窓際の席に案内された。「ご注文は?」
 メニューを見ながら龍哉がパスタを注文する。私もバジルのパスタを頼んだ。

 窓の外には行き交う車と歩道を歩く人たちが見える。

 なんだか気持ちは沈んだままで、何か言おうと思っても言葉が出て来ない。

 頭の中に昨日の夢の映像が浮かぶ。龍哉は色んな女性とああいう時間を過ごして来たんだ。本当に愛していた人との事なら許せる気がしていた。好きでもない、その場限りの関係を認められない私が居る。

 嫌悪感……。強い不快感……。私が潔癖症過ぎるの?

 龍哉も何かを考えているようだ。昔の女性の事? 遊んでばかりいても一人くらい本気で愛していた人が居るでしょう? でも聞こうとは思わない。もうこれ以上は聞きたくない。

 どうして一緒に居るんだろう。龍哉と……。私が龍哉に好きだって言ったから……。責任取ってって言ったから……。

 あれから、たった二週間しか経っていないのに。もっと幸せそうな笑顔で居られると思っていたのに。

 五年前……。あの時から龍哉は誰とも付き合ってはいないと言った。もう綾以外の女と付き合いたいとも思わなくなった。さっき龍哉はそう言った。

 でも……。愛してないのに抱けるんだ。もう時効? 私の気持ちに時効はない。このまま龍哉と付き合って許せるのだろうか? どんどん自信がなくなって行く。

 私のあの告白は間違っていたのだろうか。龍哉とは幸せにはなれないのだろうか。

 龍哉も何かを感じているのか何も言わない。

 思い出したくない事だけ綺麗に消してしまえる消しゴムがあればいいのに。
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