妖しく溺れ、愛を乞え

 ◇

 迎えに来てくれるという圭樹を待つ間、急いで支度をする。

 荷物の奥から、ダウンコートを出す。そして、靴下を2枚履いた。

 雪の里ってくらいなんだもの、寒い場所なんだと思うから、ある程度の準備はしないといけない。見せてくれた映像では、凄く雪深かったし。そうすると……足はヒールの無いブーツだ。なるべく歩きやすいやつ。寒いことは必須だろうから、カイロも持ったほうが良いかもしれない。

 スマホの充電を確認し、クローゼットから引っ張り出したリュックに入れる。財布と免許証くらいは持って行こう。

 荷物を用意したら、電気を消して部屋を出た。マンションの外に出て待って居よう。すぐに来てくれるはずだ。

 外に出て、辺りを見渡す。右見て左見て、前後……圭樹はどちらから来るだろうか。落ち着かないよ。じっとしていられない。キョロキョロとあちこちに視線を送った。

「雅ちゃん」

 急に後ろから名前を呼ばれて、強烈にびっくりする。振り向くと、長い黒髪をひとつに結った圭樹が立っていた。
 夜の闇に隠れるように……していないのかもしれないけれど、そう見えてしまう。

「……びっくりしたぁ」

「すぐに行こう」

「う、うん」

 気配を消して近付くの、辞めて貰えないだろうか……。怖いっつーの。
 圭樹が来いと合図をする。有無を言わさず出発だ。じっとしてなんていられないんだから。

「ど、どこへ行くの?」

「俺の家に行く。こっちでの棲み家だ」

 よく見ると、圭樹は車でここへ来たらしい。黒いセダンが道路に停車していた。なんか……本当に普通に生活しているんだなぁ。今更ながら感心してしまう。
 ぼーっとしていると「乗れ」と促されて、駆け寄って車に乗り込んだ。


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