妖しく溺れ、愛を乞え

「靴の選択、間違えちゃったかなぁ。長靴の方が良かったかも」

「がんばれ。俺が付いている」

 そうだね。その通り。これでひとりだったら、前にも後ろにも進めなくて、きっと途方に暮れて泣いているところだ。圭樹が居てくれて、本当に良かった。

 どれくらい歩いただろうか。もうふくらはぎから足の裏から、あちこち痛くなってきてしまった。雪は止まない。ブーツも濡れてきてしまって、体力を奪っていく。

「わあっ!」

 雪に足を取られて、転んでしまった。

「大丈夫か……ほら。しっかり」

「ごめん……」

「登山靴を履いてこいと言えば良かったな」

「大丈夫。登山靴なんて普通の女の子は持ってないから」

 硬い雪に打ち付けてしまったのだろうか。膝が痛い。肘も痛い。

「少し、休もう」

「……休んでる暇なんか無いけれど、でも、ちょっとだけ。足が痛いよ」

 雪が染み込まない合羽とか、ゴムの長靴とか。温かいお茶が入った水筒とか。そういうのを準備して来れば良かった。

 座るところも無いから、とりあえず雪の上に腰を下ろした。圭樹も空を見上げてから、ゆっくり座った。

 圭樹が付いているから、遭難することは無いだろうけれど、雪山で迷子になるのって、こんな感じなのかな。なんて、変なことを考えてしまう。

「雪、止まないな」

「いつもこんなに降ってるの?」

「まあな。一応日本だけど、ここら一帯は雪が溶けることは無いよ。ずっとこうだ」

 日本のどこか。こんな場所があるなんて。季節感無視なんだな……。もうすぐ夏が来るっていうのに。

「里からふたりで出たことを思い出すな。あの時もこんな感じだった」

「へぇ」

「俺が道を間違えた」

「だめじゃん……」

 何年前のことなのか、遠い目をして話す圭樹。

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