妖しく溺れ、愛を乞え
 手を握っている。冷たい手を。このまま、離さないのに。あたしはここに居るのに。

「愛してる、よ、元気で、な……みや……」

「や、やだ。深雪」

 優しい涙でいっぱいになった目が、あたしを見つめたまま、ゆっくり閉じて行く。

「逝かないで、いやだ。深雪、深雪!」

 長い睫が、あたしの叫び声に揺れていた。

「いやだ、置いて行かないで! ひとりにしないで!」

 深雪の意識を、命を、捕まえられるなら、なんでもするのに。深雪の胸に縋って、大声で呼びかけた。戻って来て欲しい。

「いやだぁ!! 目を開けてよ!」

 どうしてなにもできないの。こんなのって酷い。


「あたしだって……あなたを、好きなのに……愛しているのに」


 冷たい手は、まだこんなに柔らかいのに。何度も触れた手だ。あたしを何度も、抱いた手だった。


 悲しみと寂しさが、頭の上に振って来たようで、動けない。どうして、もっと早く出会いたかった。そうすれば、少し長く一緒に居られたかもしれないのに。気持ちをちゃんと伝えることができたのに。こんな風にじゃなくて、きちんと。



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