妖しく溺れ、愛を乞え
 怖すぎる。なんなの、どうしてこうなったの。ここどこあたし帰る。

「死なないから。騒ぐな」

「やだやだ、怖い帰る帰ります! なにここどういうこと。ホテルじゃない!」

「山奥だからな」

「なにそれ山奥ってどこ! なんで山奥なの一応ここ東北イチの町だよ? 伊達政宗だよ? 政令指定都市だよ? 県庁所在地よ? なんでそこに雪の山奥! ますます怖い! ドアが無いよ!」

 なんで街の中のホテルに突然、雪の山奥が出現するのよ。振り向いてもそこにあるはずだったドアが無いし。頭おかしいんじゃないのこの人!

「俺の、実家みたいなものかなー」

「だから! なんで!」

「分からないか。話すより見せた方が早いと思ったのに」

「すみません処理能力低いんで! 怖いよー!」

 パニックを起こすあたしを見て、尾島専務はため息をつき、パチンと指を鳴らした。

 すると、すっと景色が変わり、落ち着いたホワイトの壁とブラウンのカーテン、ベッドがふたつ置かれたツインの部屋が姿を現した。

「……え?」

 これ、ホテル……だね。これはホテルだ。ああ、安心した。ホテルってこういう感じよね……ってオイ!

「いやああああ怖いーー!! なんでー!」

「またか、うるさいやつだな」

 あたしは涙を流しながら抗議する。わけが分からない。

「なんなんですか! 遊んでないでここから出してください! もうヤダ帰る!」

 今度はドアがちゃんとある。もう帰る!

「待て。話は終わっていない」

 腕を掴まれた。

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