妖しく溺れ、愛を乞え
「話なんか無いですよ……理解できないからもう帰ります。悪い夢でも見てるんだ……あたし、お酒も飲んでるし疲れてるし……失恋のショックで……ぼろ雑巾みたいに捨てられて……」

 ぼろ雑巾は言い過ぎたし、言わなくていいことまで喋っている。涙が止まらない。悲しいのか、怖いのか。お酒のせいか、情けないのか。きっとそのどれもだよ。

「そうか、そして俺はきみを拾ったのか」

「そう、なんか変な男に逢って」

「で、俺は雅に惚れたと」

「だから、変な男が専務で……え?」

 いま、また変なこと言ったよね……。

「雅、よく聞け。俺はお前を愛してしまった」

 呼び捨てすんな。

 あごが外れたかもしれないってくらい口が開いてしまった。何語? 何語なのそれ。

「まぁそこも大事な話だけど、それだけじゃない」

 真面目な顔をして、あたしを見つめる。涼やかで綺麗な顔で。そんな風にしたってね、騙されないんだから。そういう風にすれば今までの女は落ちてきたのかもしれないけれど。
 
「俺は、人間じゃない」

「……へ?」

 なにを言っているの?

「妖怪って、分かるだろ? 見たことが無いだけで」

 ……納得できるわけ、ないじゃない。
 あたしは再び、白目をむいて思考停止した。

 どういう、こと。


 ◇

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