妖しく溺れ、愛を乞え
「どうするの? これから」

「とりあえず……今日からしばらくホテル暮らし」

「まじ?」

 琥珀色のビールをまたひとくち。

「だって他に行くところ無いですもん」

「お金かかる~! あたしんとこ来る? 実家だけど。部屋空いてるよ」

 独り暮らしならまだしも、実家に行くなんて、それはできない。

「いやいや、ご迷惑なんで」

「だって他に行くところ無いんでしょ」

 ミミさんじゃなかったら誰だと聞かれても、友達のところに行こうとも思ってない。

「何にもできなくてごめん。帰り、サンドイッチ作ってあげるから持って行って。朝ご飯にでも食べてよ」

「うわあ、ありがとうございます!」

 なんて良い人なんだ……。捨てる神あれば拾う神ありってこのことだな、なんて思いながら、ビール2杯目を頼んだ。

「まだ23でしょ? これからまた良いひとに巡り会えるって」


 よく、聞くじゃない? あたし、失恋した友達に言ったこともあるよ。「良いひとが居るって~」って。
 でも、月並みなことは聞き飽きたよ。いいのよそういう気休めみたいなことを言ってくれなくたって。性格悪いよね、こんなこと。でも、でもよ。その「良いひと」をここに連れて来てくれよいますぐに早急に! とか思ってしまうわけ。

 ああ、捻くれている。

 カウンターの一番端に、白い花瓶に赤い薔薇があって、そこだけパーティーしているみたいだ。

「あたし、薔薇が一番好き」

 ひとりごとは誰も聞いていない。ミミさんは洗い物をしている様子だ。

「花束みたいな女になりたかった」

 潤の彼女で、隣で、薔薇の花束みたいに笑っていたかった。綺麗だねって、花束をそうするように、抱き締められていたかった。

 いまきっとあたしは、水をうまく吸えなくて枯れたひとつだ。花瓶から抜かれて捨てられた。捨てられたんだ……。


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