妖しく溺れ、愛を乞え

「……っ」

 かすかに聞こえる声と息遣いで、眠りから呼び戻される。なんだ? 外? いや違う近く……この部屋。

「うう……ゴホッ」

 隣。深雪……? 寝言? そして咳込んでいる。夢でも見てうなされているのだろうか。

「ハァッ……うう、う」

 違う。苦しんでいる。
 あたしは起きあがって、隣で寝ている深雪を見た。真っ暗にはしていない室内。ベッドの上に丸まって胸を押さえ、背中を丸める彼の姿があった。

「み、ゆき」

「う……ハァッハァ……」

「ちょっと、大丈夫? どうしたの!」

「……くう……なんでも、ない」

「なんでも無いわけないでしょう! 苦しいの? 胸? 気持ち悪いの?」

 食べ物に当たったとか? 呼吸が辛そうだ……なにか他の病気だろうか。

「う、ぐ……ううう」

 乱暴に仰向けになったかと思うと、空気を求めて喉をヒュウヒュウと鳴らしている。

「深雪!」

 ためだ。呼吸困難だ。病院に連れて行かないと。このままでは、死んでしまう……!

「い、いま、救急車呼ぶからっ」

「だ、だめ、だいじょうぶ、だ」

「深雪!」

「すぐ、良くなるから……発作みたいなもの」

 そうだった。彼は人間ではなかった。不用意に人間界の病院へ連れては行けないのかもしれない。

「でも!」

「……みっ、みやび」

 あたしはキッチンへ駆け込み、コップに水を注いで戻った。飲めるのか分からないし、どうしたら良いのか分からないけれど、黙って見ているわけにはいかなった。

「飲める? 水……」

「す、少し、落ち着いて来た……から」

 ふうふうと呼吸をする深雪。一体、どうしたというのか。
 体のどこかが悪いの? 今日は具合が悪かったとか。

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