妖しく溺れ、愛を乞え
 深雪の手を握っていると、激しく上下していた胸が穏やかになって来た。本当だ、落ち着いて来たんだ。

「は……もう、大丈夫」

「深雪、どうしたの? どこか悪いの?」

 うっすらかいた汗を手で拭ってやる。深かった眉間の皺は取れ、目もちゃんとあたしを見ている。

「なんでも、ない。ちょっと、人間界との空気が合わない時があって」

「よく分からないよ。そうやって煙に巻かないでちゃんと説明してよ」

「……いや、とにかく。もう大丈夫だから。ごめん」

 ごめんなんて、謝らなくても良いのに。呼吸が落ち着き、苦痛に歪んでいた表情はいつもの綺麗な顔に戻ってきている。

「……良かった……」

 深雪の手を頬に当てた。もう、心配した。

「雅……キス、してくれないか」

「は?」

「……怒らないで」

「深雪」

 濡れた瞳が薄暗い部屋であたしを見ている。てらてらと、濡れていた。

「俺の、そばに居て」

 握っていた手が解け、あたしの頭をそっと抱き寄せる。顔が、近い。


「……」

 この日、初めて自分から、唇を寄せた。

 舌を絡ませて、2回3回と、されるがままになった。




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