妖しく溺れ、愛を乞え
 ◇

「雅」

「ん……」

 まだ甘いだるさから逃れられない。名前を呼ばれ、上の空で返事をする。

「妖怪の体は、そんなに良かったか?」
 

「……もう、今すぐ息の根が止まればいいのに」

「酷い、雅」

 あれから何度も何度も頂点まで連れて行かれ、もうだめだって言っているのに離して貰えなかった。
 あたしは起き上がることができない。腰が抜けたみたいになってしまって……これってなんなの?


「いつもだったら、あのまま食っちゃうんだけどね。その方が相手も良いだろうと思って」

「そんなこと、聞きたくない」

 いままで、どれくらいの女を、手にかけてきたのだろうか。想像してぞくりとし、でも自分は無事であることに安心する。……最低だ。

「なんだ、嫉妬か」

「そんなわけないでしょ」

 ベッドの上で体を起こせないでいるあたしを、上半身を起こした状態で見下ろす深雪。ふっと微笑んで、あたしの乱れてぐちゃぐちゃになった髪を撫でる。

「……俺が、好きか」

 返事に困ることを聞く。なんて答えたら良いのか分からないのに。

「俺のことを、愛しているか」

「深雪……」

 体に響くような低く甘い声が、するすると耳に入ってくる。

「……分からない。なんて答えたら良いのか分からない。分からないよ……」

「雅……」

「あなたを、失いたくないって思った。だから、あたしの体が役に立つなら、食われても良いと思って」

「きみを食ったりしないよ」

 与えれば、なにかが解決すると思った。自分のなにかを、体、言葉……それを与えれば、離れて行かないと。ひとりぼっちにならないと思った。

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