ラヴィアン王国物語

★★☆
 ヴィーリビアから続く海路はやがて途切れた。上陸すると、すぐに闇市が見えた。その
後には市街地。様々な商品がアイラの目を引く。

(結構繁盛してる。スメラギが商売したいって言う意味もわかるな)

 石の道が続き、広大な砂漠が姿を見せ始めた。奴隷たちを連れた王族はぞろぞろと馬車
に乗り込んだ。後から、警備用の駱駝を引いた兵士が数人続いた。
 ラティーク王子の側でなんやかやと世話を焼いている男は背が大きい。
 乗り込んだ四人馬車の正面には、そら恐ろしいほどの美貌を晒して、ラティーク王子が
既に居眠りの船を漕いでいた。顔色が悪い。口を軽く開けて喘いでいる。

「ね、何か苦しそうだけど……大丈夫かな。具合悪そうよ?」
「熱射病ですよ。普段不健康な暮らしをしているのに、太陽の真下にいらした。奴隷が来
ると聞くと、いそいそと出かけるは良いが、後の容態の悪化は眼も当てられません。砂漠
の大国の王子なのに熱射病。このアリザム、お付きとして情けない話です」
「でも、こう暑いと水分が欲しくなるんじゃない? じゃあ今も、熱射病?」

「いえ、これは、ただの昼寝です」
アリザムと名乗った男はぴしゃりと告げ、そっぽを向いた。事務的な喋り。格好も色味を抑えたトーブに、一縷も髪を零さない頭布。冷徹な事務官そのものだ。
 つまらなくなって、足を揺らすと、ラティークの睫もふるふると揺れ始めた。

(そういえば、サシャーと離れてしまったな)

 アイラは縛り上げた髪をいじくりながら、前を走る大型馬車を見詰めた。骨太の駱駝が
引っ張っているから、速い。アイラの馬車は小型で、身を乗り出させた途端、手首の小さ
な腕輪に気がついた。
 細いロープが伸びており、眼で辿ってゆくと、ラティーク王子の手首に行き着いた。

「あたし、束縛大嫌い!」

 怒鳴ったアイラの声で、ラティークが薄目になった。

「寝足りない。大声やめてくれるか、奴隷。寝室で好きなだけ叫ばせてやるよ……」

 また、スウと瞼を下ろして夢の中に帰って行った。

「王子は絶好調。特に案ずる箇所はなし」

(勝手にすれば! その美貌、台無しよ!)

 馬車は石蕗をひたすら走った。オレンジのヴェールを空が被る。重苦しい木々が揺れる
音。小さな砂嵐が通り過ぎた。宮殿に向かう馬車の対向には、荷物を載せられすぎてヨロ
ヨロしている駱駝の群れ。
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