ラヴィアン王国物語
「ラティーク王子の腹違いの兄、次期王のルシュディ王子です。珍しく一緒になったので、
話をしているのでしょう。お側衆が聞き耳を立てるほどでもありますまい」

 言いながら、アリザムは「ふむ」と聞き耳を立てた。

「王は目覚めない、か……王位継承をどうするつもりなのでしょうかね」
「第一王子さまが引き受けるのがスジよ。ちゃっかり聞き耳、怒られるんじゃない?」
「ふむ。しかし、その継承を執り行う王が昏睡状態に陥って、早くも二年だ。決定権は王にある以上、世継ぎだと公言ができない状態です」
「代理を立てたら? それか、第一子権限で……」
「随分、博識だな。おまえ、奴隷にしては、物知りだ。口が滑った。忘れろ」

 あまり喋ると王女の素性がばれてしまう。面倒な王位継承問題に巻き込まれたくないし、
自由に動けなくなる。口を閉じたアイラの前を大きな壺を抱えた男たちが通り過ぎた。今度は絨毯を女官三人が運んで行った。
 ラティークは腰に手を当てて、ルシュディの話に頷いていたが、突如爪先を砂に打ちつけ始めた。その度に腰に括り付けたランプがガンガン太腿に下げた宝飾に当たって歪な音を響かせている。どうみても邪魔そうだ。

(邪魔なら外せばいいのに。ヘンなの。太腿痣だらけじゃないの?)

「アリザム! 執務はしないぞ!」

 カンコン、ゴゴン。ラティークが賑やかに通り過ぎた。チラとランプを見たが、持ち手は禿げているし、昔のデザインだしで、お世辞にもお洒落とは言えない。

(本当に、なんなんだろ、あの腰に括った汚いランプ。金物屋でもやるのか)

 ……と、金物屋の音が止んだ。ラティークが足を止めて振り返った。

「その奴隷を着飾らせ、僕の宮殿のハレム部屋に寄越してくれ。兄貴の顔を見たくない。執務は代理を任命し、僕は好きにさせて貰う。命令だ、アリザム」

「……かしこまりました。ではすぐに手配を」

 苦虫を噛み潰した表情で、アリザムは深く頭を下げた。ラティークはまたガコガコランプを蹴飛ばしながら、王宮の奥に消えた。


(……邪魔なら、持ち歩かなければいいのに。王子さまのお考え、わかりません)


 アリザムは肩を竦め、女官を呼んだ。

「この奴隷を王子の離宮に迎え入れる手筈を。早急にだ」

(ちょっと待て。王子の離宮?)何か話が見えなくなってきた。
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