ラヴィアン王国物語
 ラティークの言葉を待たずして、黒駱駝に乗った覆面の男達がラティークとアイラの乗っている駱駝を囲んだ。

「なんだ、団体で来られても、僕のハレムに入れるはオンナだけだが、相手になろうか。あまり武器は好きではないが、アイラに剣を向けて見ろ。容赦しない」
「かっこつけている場合ではありませんラティーク王子。——紋章を見て判断下さい」

「分かっている!」
 アリザムに言い返して男達の覆面の紋章に眼をやった。


(王族反対派の一味なら、捕まれば八つ裂きか、奴隷船か。しかし、兄の仕向けた追っ手かと思いきや、男達の紋章に覚えはない。しかし、戦い方は陸のものではない。ラヴィアン王国の人間ではないな。——海賊?)


 どうやらラティークの命を狙っている様子ではない。さては、破落戸に絡まれたかとラティークは剣を納めた。

(他国の人間を王子が斬っては風評ががた落ちになる。兄の追っ手でない以上、剣を抜く理由はない。ここは精霊に追い払って貰うがいいか)


「他国の盗賊か」

 呟いたところで、アイラがぴょんと駱駝を降りた。手には駱駝に括り付けてあった水差し。アイラはラティークの横をすり抜けた。


「こんなところで何してんのよ! スメラギ! よくもハレムの嘘、教えたわね!」

「げ! そのチッパイは! おまえこそ、砂漠のど真ん中でアイラ! おい!」


 ラティークは視線を逸らせた。アイラは水差しを男の頭上に炸裂させ、伸びた男の覆面をはぎ取った。アイラは水差しをぽいと投げ「取り調べでもなんでもして」と背中を向けた。



 黒い眼帯にこれでもかとぶら下げた宝石には見覚えがある。

 かつてラティークにアイラを売りつけた、ヴィーリビア国の商人スメラギだった。
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