ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー
― ― ― ― ― 

「ねぇ、これでできてる?」
「できてるよ。ほら、風が集まってきた。」
「わぁ!浮いた!」
「ジアにはやっぱり呪文はいらないんだなぁ。」
「え?」

 ジアはふわふわと浮かんでいる。城の裏の小高い丘の上が、今の二人の魔法の練習所だ。
 アスピリオから戻ってしばらくして、キースはジアに魔法を教える者として城に雇われることになった。アスピリオの話を聞いた国王は、アスピリオとの友好条約に向け、アスピリオまでの交通手段の整備や、土地の様子などを調べるべく調査団を作ることにしたが、志願者がおらず、結局志願したのはシュリだけとなり、今はシュリとシャリアスがアスピリオで土地を研究している。
 クロハは龍の鱗の研究を始めている。たまたま落ちていた鱗を数枚持ってきていたらしいが、その鱗から取れる成分が新しい薬に生かせそうということらしい。
 ミアもその研究を手伝いながら、城下に出るようになった。怪我をした子供たちを手当てするようになり、魔法というものを少しずつ知ってもらうことにしたようだ。
 そしてジアは、アスピリオに自力で行けるように、今は移動のための魔法を習得しようとしている。

「ジアはさ、多分1回見たらいいんだよ。」
「そ、そんなんでできないよ!」
「いや、でもできてるよ。俺、見せたし、この中にも入れたしね。それに、グロウが一番最初にできたんでしょ?」
「そう…だけど。」
「時に関しては専門外だけど、他の俺が使える魔法は、見れば案外できるのかもしれないよ。多分ジアの場合はイメージ先行型なんだよ。こんな雰囲気かっていうのがわかれば、…というか頭の中にその魔法の完成形があって、そこに魔力を乗せていく感じなのかなって。」
「…それができてるのかわかんないけど、とりあえず浮くのは成功…。わぁっ!」

 突風が吹いて、ジアの体勢が崩れた。

「ジアっ!」

 キースが風の魔法を解いた瞬間に、ジアがキースの胸に落ちてきた。

「つかまえた。」
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