遠すぎる君
あのときの言葉通り
永沢くんは誰にも言わなかった。

そのかわりに
授業の合間になんてことない話をしたり、
放課後は私が勉強している図書室によく現れた。

トップクラスの成績の彼は
私がそこでやっている過去問題集の間違いを正し、
丁寧に教えてくれたりした。

塾に行かない私は
彼の厚意がものすごくありがたい。

永沢くんも
私に同情し、純粋に応援してくれてるようだ。

私たちは
恋人同士だと勘違いされないように
気を付けていた。

でも
修学旅行前よりは格段に距離が縮まっていて
受験のないのんびりした青蘭の生徒たちの中で
少し噂になっていた。


事実じゃないから堂々としていればいい。
だけどこんな噂、遼に知られたくない。

知られたとしても
遼にはどうってことないのかもしれないけど…

遼は相変わらず必要以上に話しかけては来ない。



12月に入り、一段と空気が澄んできたある日の放課後。

やっぱり図書室に行くつもりで荷物を片付けていた。
「今日も図書室?」
美幸は隣に立って私を見下ろしていた。
そして私の前の席に後ろを向いて座った。

「…永沢くんと?」

永沢くんも聞こえたのか、私たちの方を見てる。
「一人だけど…」

「ずっと思ってたんだけど
なんでそんなにガリ勉になったの?」

眉間にシワが寄っている。

「外部受験するの?」

心臓が早鐘を打ち、手が止まる。
一瞬、永沢くんを見た。
永沢くんも少し動揺している。

私のその動きを見逃さず
「永沢くんは知ってるんだ…」

いつも聞くより低い声が怒りを現している。

「私…何にも聞いてないんだけど…」

身を乗り出した私に対するように美幸は身を引く。
「美幸っっ…!私、美幸に言おうと…!」

「でも聞くまで言ってくれなかった」

しばらく私たちは見つめ合った。

「ごめん…」

「いつ?いつ決めたの?」

「……7月…」

親友はクワッと目を向いて立ち上がった。

「7月ぅ……!今、何月だと思ってんの!」
大きな声に教室中からの視線を浴びる。
数人しか残ってなかったけど。

永沢くんは心配して

「場所を変えた方がいいかも…」
と小さな声をかけてきた。

私は頷いて鞄を持って立ち上がった。

「美幸…全部話すから…中庭のベンチに行こう…お願い」

釈然としない様子で付いてきた。






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