遠すぎる君


遼は私の前にしゃがみんで、ブランコの鎖を両手で持った。
私たちの距離は私の足の分だけ。

遼のそんな行動は初めてで、ドキドキした。

「お前に見に来てほしいんだ。」

強い意思が遼の瞳に映っていて、「うん…」としか言葉が出なかった。

「……ほんとか?」
ここにきて頼り無げに言うので
「うん、行くよ。見に行きたい。」
ハッキリと言えた。

すると、ホッとした表情の遼は鎖から手を離す。
それが少し寂しく感じた。

でもその手はポケットから何かを出し、それを丁寧に掌に乗せ、私の目の前に差し出す。

「誕生日プレゼント」
「え?」
「2年前から用意してたんだけど、やっと渡せる……」
「…………」
「お前、好きだっただろ?あの……何ていった……雑貨屋のだから。」
「……シュプレ?」「そうそう」
遼の表情が柔らかくなる。

遼の掌の上のネックレスをじっと見た。

遼が私の誕生日を知ってた?
私が好きな雑貨屋を知ってた?
雑貨屋に買いに行ってくれた?

有り得ない事実が私に衝撃を与え、声が出ない。

「……受け取ってくれないのか……?」
不安な声が聞こえた。

私は遼の手から、ゆっくり掬うようにそれを自分の掌に乗せた。

「イルカ……」
「そんなの好きかな……と思って……ガキすぎたか?」

暗闇なのにそのイルカはキラキラ輝いてるように見えた。

「あ…りがと」
涙が頬に伝った。

「え……?な、なんで……」
狼狽え始めた遼が少し可笑しくて、泣きながら笑った。
「だって、雑貨屋に遼が……」
「あ、俺、メチャクチャ恥ずかしかったんだけどな!笑うなよ……」
「……誰かと行ったの?」
「バッ!彼女のプレゼントを誰と選ぶんだよ!あ、…」

彼女

その言葉が私の涙腺を破壊した。

今は違う。わかってる。
でも、そう思って買ってきてくれた。一人で……
しかも何年も持っていてくれて、私のもとへ届けてくれた。

嬉しい、嬉しすぎる。

もう、涙を止める方法がわからない。

突然ぎゅっと痛いぐらい頭を抱えられた。
遼のTシャツが私の涙を吸い込んでいく。

「泣くなよ。俺……お前に泣かれるとどうしていいか……」

やっぱりオロオロと狼狽えている様子が体から伝わってきて、
涙を流しながら口許が緩む。

「…泣かそうと思った訳じゃねーのに……」
とかブツブツと後悔じみたことを言い出したから、遼のTシャツをきゅっと握って、
「……すごく嬉しかった。大事にするね?」
と言うと、
「!……おう!」
ホッとした声と同時に、頭に回る遼の腕の力が少し強まった。

幸せすぎて
このまま時が止まればいいと思った。










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