遠すぎる君
三度目の誕生日


「誕生日、おめでと~!」
「ちょっ!こんな場所で声大きいよ!」

会った途端、両手を上げて抱き締めようとしてきた美幸の肩を押して思い止まらせた。

「冷たいなぁ~。こんなに暑いのに氷河期だな、あんたは。」
「なに言ってんの……」

そして二人顔を見合わせて笑った。

「元気してた?」
「うん。もちろん。」
「今日は色々聞かせてもらうわよ~」
「え?な、何を……?」
「ま、とりあえず行きましょ。」
へっへっへ……とにやけながらショッピングモールの入り口から中へ入る。

誕生日を祝ってくれるという美幸が、学校帰りに奢ってくれるというのでやって来たショッピングモール。


「ここ、美味しいんだって。これもあるし。」
ジャジャーンと効果音を付けて私に見せたのは割引チケット。
「奢るのに割引チケットあるとこ選ぶ?」
「あはは……まぁこれはたまたま。一番高いの食べていいから。」

相変わらず私を心から楽しませてくれる親友だ。
永沢くんとも続いているらしい。
私が引き合わせたようなものだし、とても嬉しい。
美幸は私に気を使ってか、永沢くんの話はほとんどしないけれど。

目の前にアップルパイとショコラ、紅茶のポットが置かれて
「じゃあ、改めて~。おめでとう!」
「ありがと」
「誕生日にアップルパイって。ろうそく立てれないじゃん。」
「そんなサービスあったの?」
「無いけど」
「……無いんじゃん……」

冗談冗談……と美幸は手をヒラヒラさせる。
そんなサービス満載の美幸が幸せになれそうな話題を振ってみた。

「永沢くんは……どうしてる?」
「え……?あぁ……元気元気。春から特進クラスになって、離れ離れ~。隣の棟になっちゃったんだよね……」
「特進?スゴいね!」
「なんでもT大の法学部目指すんだと……あーぁ。しおりみたいにもうちょい賢かったらなぁ……」
「えー。私なんて、下の方だよ。」
「しおりはやればできるもん。私はやってもできないもん。慎一にだって結構しごかれたんだから。」
「……しんいち?」
「あ……。永沢くん、ね?」
付き合って一年以上の永沢くんを名前で呼んでると思うのに、私の前では絶対呼ばなかった。
つい口に出るくらいそれが自然なんだな。

ニヤリと笑う私をちょっと睨む美幸。
でも、その顔は耳まで真っ赤。

「な、なによ!」
「えぇ~?どうしたの?前からそう呼んでたんでしょ?
なんでわざわざ言い直すかなぁ。」
「うるさいよ……」
とケーキの一切れを口に運んだ。

そんな美幸を見るのは嬉しかった。
幸せそうな美幸は、私を間違いなく幸せな気持ちにしてくれるんだから。


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