だいだい色のくちばし
くび
あひるは街の食料品店で事務の仕事をしていました。
週に5日、月曜日から金曜日まで。朝9時から夕方6時までしっかり働いていました。
あひるは元来真面目な性格ですので、欠勤などと言う言葉は知りませんでした。決められたお休み以外に休んだことはありませんでした。

小さな街でしたので、食料品店はあひるが働いているお店だけでした。しかも事務員はあひるただ一人でした。毎日の売上金の計算、伝票の入力、ちらしの作成まで、あひるはなんでもこなしました。
実際、食料品店はあひるがいないとつぶれてしまうんじゃないかという程あひるはよく働きました。あひるもまた誰かに必要とされていることに非常に満足でした。

あひるは毎日自転車で仕事場に向かいました。赤い自転車はあひるの白い羽にとても良く似合っていました。あひるは自転車をしゃんしゃんこいで、スピードを出して仕事場へ向かいました。
あひるは自転車で風をきって走るのが大好きです。風が羽の中を通り抜けて行く感触がとても気持ち良く感じられるからです。
今日は特別風が気持ち良く感じられました。あひるは何か起こるような気がしました。

あひるは毎日一番に仕事場に着きます。
「おはようございます。」
まだ誰も来ていないと分かっていても、あひるは挨拶をして―元来真面目な性格ですので―仕事場に入ります。
すると、珍しく店長が先に出勤してあひるを待っていました。
「おはよう。」
店長はうつむき加減に挨拶をしました。
あひるは何かあったのかと、心配になりました。
「実は君に話があるんだ。新しい事務員を雇ったから、君はもう来なくていいよ。」
店長はそう言いました。
あひるはくびになったということに少し驚きましたが、すぐに気を取り直しました。
「ひとつ質問をしてもいいですか?」
あひるは尋ねました。
「新しい方のくちばしの色は黄色ですか?」
店長は静かにうなづきました。
あひるはすっかり辞める決心がつきました。あひるは店長がだいだい色より、黄色の方が好きなのを知っていましたし、世の中がそういうものだということが分からないようなあひるではありませんでした。

あひるは少なからずの退職金を受け取り、通い慣れた食料品店をあとにしました。
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