ホオズキ少女の嘘
陸がそこにたってた。

そりゃあ驚くか。なんの前触れもなく泣いてるんだもん。

…今だ。今言うしかないんだ。

別れようって。そのほうがいいんだから。

「ね、ねえ陸…っ!」

「…何?」

言いたくない。本当は。

本当は嫌なんだよ。この世界から消えるのも、陸と別れるのも。

「別れっ…よう……?」

「…何で…?」

「私と一緒じゃ…陸が幸せになれないの…」

言った。言ってしまった。

「何で…俺は夏来といるだけで…」

「ダメなの!!私じゃ…だめなの!!!」

呆然と立ち尽くす陸の横で、



「――ごめんね。」



その一言を呟いて、私は部室を後にした。

…これで、よかったんだよね。

陸はもうすぐ死ぬ人となんか一緒にいても、幸せになれない。

好きだった…いや、大好きなんだけどなあ。

目から流れ落ちるなにかも気にせず、









――――私は夕暮れの街を駈けていった―――。









「ハア…っハア…」

校門を抜け、陸と寄り道したコンビニを過ぎ、陸とデートした喫茶店を通過し、坂道をずっと走っていく。

だめだ…

忘れようとしても、そのすべての景色から陸を思い出してしまう。

坂道をのぼってのぼってたどり着いた。私は家に向かっていたわけじゃない。

―――私の、…陸の、思い出の場所。

今日は夕暮れがよく見える。

「…綺麗。」

思わず呟いてしまうほど。

ここは、私と陸の大好きな場所。

ある日部活帰りに陸に誘われて、ここに連れてこられたっけ。

あの日は、月がとても綺麗にみえて、

二人で同時に言っちゃったんだっけ。

「「月が綺麗ですね…。」」

私も陸も驚いて、たくさん笑った。

だって、お互い知らないと思って言ったんだもんね。

「月が綺麗ですね」というのは、遠まわしに愛してるという意味なのだとか。

最後に陸が、付き合おっか。と言って始まったんだっけ。

「…本当は別れたくなかったのに。」

「大好きなんだよなあ…」

「本当はずっと傍にいたいんだけど…」

「いやだなあ…」

…夕焼けは、そんな私の言葉も飲み込んでいった。
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