王宮の秘薬
ステラを乗せた馬車が城下町を通った時、
「ステラ王女万歳!」「ラズラエザ王国万歳!」と
ステラの行いに対する敬意と称賛の声がいたるところから聞こえてきた。
ステラがヴェルズに行くことによって戦は終わり、
国民の生活は安定を取り戻すのだから。
(私はラズラエザの切り札……)
聞こえてきた歓声によって、その役目と責任の重さについて再確認した。
馬車の中は、女官たちが長旅をするステラへ配慮し、
長時間座っていても疲れにくい構造になっている。
その心地よさと、ここ数日の疲れが溜まっていたせいか、
ステラは何のためらいもなく夢の中へと落ちていった。
……
そこはラズラエザ城の東側にある森。
その森は他国からの攻撃を食い止める役割もしていたほど広大で、
夜に入ると二度と戻っては来られないと噂されていた。
そんな森に、一人の少女が迷い込んでいた。
いつもの庭で遊んでいたつもりが、いつの間にかこの森に迷い込んでしまったのだ。
不気味に静まり返った森。
ただ少女の足音だけがこだましていた。
西にある太陽は消えかかり、
ラズラエザの長い夜が訪れようとしている。
「父様……母様……」
暗い森とは正反対の輝く銀色の髪を持つ少女は、
恐怖と不安を抱えながら、慣れない足取りで森を歩き回っている。