冴えない彼はメガネを外すとキス魔になります!
進藤からの…

結婚披露パーティを途中で抜け出すなんて初めてだ。
しかも、そっと抜け出すならまだしも主役の二人にわざわざ断って出て来た。


この人は何を考えているんだろう?
と、私の手を握ったままスタスタと歩く進藤の背中を見ていた。
いつもより大人っぽく見えるのは、上等なスーツを着ているからだろう。


レストランの駐車場まで行くと、進藤の車が停まっていた。
鍵が解除され、自然に助手席に乗ってしまったが、上着を脱いで後部座席に置いている進藤に問いかける。




「どこに行くの?」

後部座席のドアをばたんと閉めて、運転席に乗り込んで来た進藤はエンジンを掛けながら一瞬私の方に顔を向けて
「内緒です。」
とだけ言って小さな笑みを浮かべていた。


運転している進藤の左手は、私の右手に重ねられる。
なにを話すわけでもないけれど、その左手が私の右手の甲をなぞってるだけで甘美な空気が漂う。

いつまでもこの甘いひとときに浸っていたかったのにあっという間に目的地に着いた。




「ここは・・・」

比較的新しいけれど、ここ何年か、東京で泊まりたい高級ホテルにランキングされている人気の高いホテル。
そのホテルのエントランスに車が滑り込む。



「ホテル?」

進藤はその質問には答えぬまま、トランクから荷物を下ろしてベルボーイに預けた。



「夏希さん、食事、まだですよね?ご飯食べましょ。」


ご飯食べましょって、
社食にでも行くような軽い言い方をしてるが、このホテルのレストランは格が違う。
私が返事に躊躇っていると、また車は動きだし、エントランスから地下駐車場へと降りて行った。


車を駐車場に停めた進藤の後をついて行く形で、エレベーターに乗る。
進藤はどこへ行くか始めから決まっているように38階のボタンを押した。
最上階を示すその階にはレストランが一軒あるだけだ。




「進藤?このレストランって・・・」

私の戸惑いとは裏腹に進藤は涼しい顔をしている。
エレベーターは最上階の38階まで一度も止まらなかった。


扉が開くと、レストラン全体が見渡せる。
大きな窓に囲まれていて、夕闇に染まった景色がパノラマ写真のように広がっている。
昼と夜の狭間、一瞬で通り過ぎるキレイな空だった。



「わぁ・・・キレイ。」

景色に見とれていると、ひとりの男性が近づいて来た。



「進藤様、お待ちしておりました。」

名乗りもしないのに、胸のプレートに支配人と書いてあるその男性は私達を席に案内してくれた。


私は小声で「どういうこと?」と進藤に聞いてみるが、にこっと笑うだけでなにも答えない。
すでに食事を楽しみに来ている人が数組いただけでまだ夕食には早い時間だ。


案内された席では、眼下に広がる景色に胸を打つ。
都会の街並みが夕焼けに染まる。
遙か遠くには富士山も見える。



「キレイ・・・」

思わず漏れてしまうほど、魅了される。



「日が落ち切ったら、もっとキレイですよ。」

と、イスを引きながら支配人が教えてくれた。



「ありがとうございます。」

レストランでイスなど引いて貰うことに慣れていない私は、少し戸惑っていたら、支配人が「どうぞ」と促してくれた。



景色に気を取られていたけれど、周りを見渡せば品の良い人ばかりだった。
場所が場所でそう見えるのかもしれないけれど、私には場違いでならない。


進藤を見るとやっぱりすました顔で、手渡されたメニューを開いている。


私も同じように見たけれど、何がなんだかサッパリわからない。
それを察したかのように進藤が言う。



「夏希さん、任せて貰ってもいいですか?」

なんだか頼もしい。



「うん、お願いします。」

すると進藤はワインを選び、料理も慣れた様子で頼んでいた。
一通り注文を終え、支配人が去って行ったと同時に進藤だけにしか聞こえないくらいの声で話す。





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