冴えない彼はメガネを外すとキス魔になります!
進藤の前にビールが来ると、私は進藤にグラスを向けて乾杯をした。
すると店に流れて来た曲は、私のお気に入りのソウルミュージック。

私はこの曲のイントロに魅了され、せつなげなメロディに心惹かれる。
片手で飲んでいたカシスソーダのグラスの氷をクルクル回し、もうひとつの手で頬杖を付きながら音楽に耳を傾ける。
好きな音楽を聴きながら、そのメロディひとつひとつに酔いしれる事が至福の時間なのだ。


だから『246』に来ると、こうした至福の時間を誰にも邪魔されたくない。
ふと、思い出したように隣にいる進藤に視線を移すと、私と同じように物思いにふけている。


この子…
こんなにキレイな横顔をしてたっけ?
進藤が視線に気が付いたんだろうか?
ふいに私の方を向き「ん?」と言う顔をする。
私は「ううん…」と、だけ返すと



「この歌、好きなんですよ…
イントロから、たまらないですね。」

と進藤が言う。



「うんうん、私もイントロが流れるだけでせつなくて泣きそうになる。」

進藤と音楽の感性が似ているのか、こうした会話が幾度となく繰り広げられていくことに嬉しさを感じる。


そして、また無理に会話を求めずそれぞれの想いにふけてゆく。
この距離感が好きだ。心地いい。


こんなふうに過ごすなら一人でもいいんじゃないかと思われるけど、二人だからこそ感じられる空気感がある。
成二と付き合っていた頃には無かったかもしれない。

仲直り?して、二人が好きな音楽が中で、ほろ酔いながら会話をする。
進藤を少しずつ意識している自分がいる。

ふと、この間の送別会で見た進藤の様子を思い出してしまった。


「進藤はさ、企画部の女の子たちに人気があるんだね。」


「あれは僕をからかってるんですよ。呑ませて喜んでる。」


「嫌って断らないからじゃない?」


「面倒ですからね、相手にするの。流れに逆らわない方が無難です。」


「出た、クロ進藤!たまにブラッキーな性格出るよね。」


「お二人に鍛えられて来てるので!
それに僕は好きな女性にしか興味がありませんから。」


進藤は私の方をじっとみつめて意味深に微笑んだ。
なに、この瞳。
私、また進藤にドキドキしてる?嘘?!

私は慌ててグラスに半分以上残っていたカシスソーダを一気に飲み干した。
マスターにおかわりを頼もうとした時、進藤が制止する。


「夏希さん、今日は呑み過ぎみたいですよ。送りますから、帰りましょ。」


「いや、まだ呑む!」

久しぶりに普段通りに進藤と話せることが嬉しいのか、私は急に進藤にわがままを言いたくなった。



「ダメですよ。いつもより2杯は多めに呑んでますから心配です。」


「進藤が心配してくれるのー?」


「なに言ってるんですか!もう帰りますよ。」

私はまだ呑めるのに進藤に止められ言われるがままに 『246』を後にした。


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