冴えない彼はメガネを外すとキス魔になります!
「もしもし」
あきらかに不機嫌な声を出す。
「なにするの?!!!!」
取り返そうとするが、スマホを持っていない方の成二の手で、体を押さえつけられてしまった。
すると成二が会話をスピーカーにする。
「進藤?」
わかってるくせに、成二は確認する。
「あ?え?夏希さん・・・正野さんは?」
進藤の声がスピーカーを通して鮮明に聞こえて来る。
「夏希?夏希なら一緒にいるよ。」
「平岡さんですよね?」
「そう。よくわかったじゃん。」
「どうして・・・?夏希さんは?」
私は成二がなにをしたいのか真意をつかめずに狼狽する。
「夏希と今、大事な話してるからさ、急用じゃなければ後でいいかな?」
穏やかな口調だけど、威圧感がある成二の声。
勝手に話、進めないでよ。と思った私は成二からスマホを奪い返そうと成二の腕にからみつく。
でもすぐに押さえつけられてしまい、狭い車の中でバランスを崩してしまった。
「きゃ!」
その声がスピーカーを通して進藤の耳に届いてしまった。
「夏希さん?どうしたんですか!?今、どこなんですか?」
進藤が怒鳴ってるのがわかる。
私は耐えられなくなり、言葉をかける。
「進藤、大丈夫だから。
心配しなくて大丈夫だから。」
「はぁ・・・夏希さん。」
進藤の情けない声が聞こえる。
「僕、迎えに行きます。どこですか?どこにいるんですか?」
次には焦った声。進藤を安心させたい。
「大丈夫だから・・・後でれんら・・く・・・・」
ツーツーツー。
電話が切られた。
そして、そのままスマホの電源を切って後部座席に投げられてしまった。
「成二!!」
成二の勝手な行動に憤りを感じてそのまま叫んでしまった。
「ふ〜ん、お前らそういう関係なの?」
「そういうって?」
「付き合ってるんだろう?」
「もう・・・どうして、そういうことになるのよ。」
「じゃ、なんだよ、今の・・・
進藤とどこまで行ってんだよ!」
そう言って成二が急に助手席の私に覆い被さって来た。
そして、抵抗をする暇もなく唇を塞がれた。
「んんっ!!!!」
私は顔を横に背けて、唇を引き離す。
「いや!なにするの!!!」
頭の上で私の両手を掴んでしまった成二の力が更に強くなる。
身動きが取れない。
そして更に強く唇を押し付けてくる。
付き合ってる頃は、成二とキスしていると全身が甘くトロけてしまっていた。
でも今は苦痛でしかない。
強引に口内へ舌を滑り込まそうとする成二の目には、嫉妬と怒りが入り交じっているようにも見える。
どうして今になって?
もう抵抗するのも考えるのも面倒だ。
ふと力を抜いた私が、なにも感じていない事を悟ったのか成二がハッと我に返って手を離した。
一瞬の隙をついて、私は車から飛び出し、その場から逃げ出していた。
いったいどこを走っていたのか、どれくらい走っていたのか・・・。