冴えない彼はメガネを外すとキス魔になります!


「進藤、今夜、一杯つき合え。」

大木さんは、あの非常階段にもいた人物で、誤解を解きたいひとりでもある。
僕は迷うことなく誘いに乗った。


定時になってすぐに会社を出て来た。
会社から近い焼き鳥屋のカウンターで大木さんと二人肩を並べている。



「まぁ、飲め!」

大木さんはコップにビールを注いでくれる。
僕もお返しにお酌する。



「お疲れ!」
「お疲れさまです。」

コップを少しあげてお互い、今日一日の労をねぎらった。


大木さんがコップのビールを一気飲みし、空になったコップに手酌でビールを注ぎながら
なんの遠慮もせず本題に入った。




「人様の色恋沙汰に興味はないんだが・・・
望美が正野を可愛がってるのは知ってるだろ?」

望美さんは大木さんの婚約者だ。
元々は設計部にいたけれど、婚約を機に僕がもともといた企画部に異動になった。




「その望美が進藤の言い訳とやらを聞いて来いって。
聞いて来ないなら家に入れないって。怖いだろう?」

と、不真面目に笑う。
きっと重くならないように気を遣ってくれているんだろう。




「ま、あの場に遭遇しちゃったしな、俺ら。
聞く権利はあるかなと。
それに望美が可愛がってるということは、俺にとっても正野は可愛い後輩なんだよ。
わかるだろ?」

僕はこくりと頷く。
夏希さんがこれだけ先輩に可愛がられている訳は、普段の仕事ぶりや、性格でわかる。
僕の言葉を待つように、大木さんは箸でお通しをちびちびと突っついている。




「僕は・・・夏希さんが好きです。」

そういう僕の言葉を大木さんは箸も止めずに




「おお、わかってる。」

とだけ言ってそのまま静かに聞いている。


その大木さんの相づちは、僕の言い訳ではなく、本音を聞くというスタンスだったと思う。




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