きっかけは誕生日
 お互いにコミュニケーションが不得手と言うことかな?

 私は間違いなく不得手だよね。

 だれかと遊びに行くより家にいる方がいいし、だれかと話しているより本を読んでいる方が……

「だから、それじゃダメなんだって」

 頭を抱えてから呟いて、はっと我に返った。

 目の前に、微妙な顔の金井さん。

「……小柳さんは、独り言が多いよね」

「え……あ。そうなんですか?」

「うん。俺も少し休憩入っていい?」

「……ど、どうぞ?」

 金井さんは青いマグカップを取り出してコーヒーを入れてから、カウンターの角に置いてあった、折り畳みの椅子を出してきて目の前に座る。

「小柳さん。たまに本を読みながら、セリフらしきこと呟いてるよね」

「え!」

 そ、そそそれは……知らなかった。

「は、恥ずかしすぎる……」

「まぁ、たまにあるよね。俺もやるよ? テレビに向かってツッコミ入れることもあるし」

「あー……」

 テレビは……

「テレビは見ない?」

 察しがいいなぁ。

「朝に、時計替わりにするだけです」

 金井さんは納得して、それからニヤッと笑った。

「ところで小柳さん」

「はい?」

「誕生日を祝うのは家族の人だけ?」

「…………」

 わ、悪い!?

 どーせひとり。どーせ友達もいない。どーせ孤独よ!

 でも金井さんには関係ないし!

 無言でコーヒーを飲んでいたら、小さく笑われた気がする。

 もう、笑えばいいよ。今日は金井さんに笑われてばかりだよ。

「仕事、何時に終わりますか?」

「え? 今日は早番だから、17時には……」

「じゃあ。お祝いしましょうよ」

「パーティ?」

「まぁ、軽くなにか食べたりですかね?」

「あ。でも、咲良ちゃんは18時までだから……」

 皆でって言っても難しいかなぁ。

 考えていたら、コトリとマグカップを置く音がして、それから金井さんはニッコリと微笑んだ……けれど、目が笑っていない。

「小柳さん。それは天然? それともわざと?」

「はい?」

「天然の方か……」

 深く溜め息をつかれて、一瞬困った顔を……された?
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