きっかけは誕生日
「まあいいです。とりあえず俺の連絡先」

 ずいっと茶色の台紙を差し出され、よく見ると名刺だったので受け取った。

 名刺には coffee の文字とお店の連絡先。それから手書きで携帯番号が書かれている。

「仕事が終わったら連絡を下さい」

「はい……?」

「ご飯食べにいきましょう。二人で」

「え?」

 二人で?

「私と?」

「今、ここに他の人がいるように見えますか」

 見えないけど……見えないけどさ。

「どうして?」

「誕生日だから?」

「なぜ」

「だから、誕生日だから」

「どうして私?」

「質問の意味が解らないよ。小柳さんの誕生日お祝いしようって言ってるのに、小柳さんがいないのはおかしいだろう?」

「え。だって、あの……」

「俺の知り合いに服屋さんがいてね。新しい服選びたくない?」

「…………」

 選びたい……選びたいけど、金井さんの知り合い?

 男の子? 女の子?

 女の子なら解るけど、男の子の選ぶ服は着る気はないよ?

「とりあえず、約束って事で」

「え。でも……」

「連絡を待ってます。ところで小柳さん」

「はい?」

「時間大丈夫?」

 言われてぱっとスマホを取り出した。

 気がつけばいつの間に、こんな時間。

「お会計お願いします!」

「ツケにしておくから、走ったら?」

 無表情に言われて困った。

「そんなわけには……」

「またおいで」

 しっしっと手で払われて、頭を下げた。

「じゃ、後でまた来ます!」

「はいはい。宜しく~」

 お店を飛び出すと全力疾走。

 休憩終了1分前に飛び込んだ。
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