きっかけは誕生日
「珍しいですね。いつも5分前行動の小柳さんが、走って戻ってくるなんて」

 交代でカウンターについてくれていた久住さんが、そう言ってから頭をかいた。

「お誕生日おめでとうございます。知らなかったから、何もプレゼント用意していないんですが」

「はい?」

「奈良さんから、小柳さんが誕生日だって聞いたんですが」

 奈良さんって、一瞬だれかと思ったけれど、咲良ちゃんの苗字だと気づいて頷いた。

「まぁ、祝うような年齢でもないですし」

 と言うか、ある意味で残念な……

「小柳さん。今日の帰りに食事でもいきませんか?」

「はい?」

「お誕生日、お祝いさせてください」

 なんだろうな。ここにきて、お誕生日を祝いましょうとか。

 今まで歓迎会や送迎会すら、誘われたことはなかったのに、ここに来て誕生日当日に、男の人から誘われるって……

 あれかしら、ママの言う通り、男の人を“引っかけて”しまったのかしら?

 それならそれで嬉しいけれど……

「ごめんなさい。先約があるので」

「あ。そうなんですね。すみません」

「じゃ、交代します。ありがとうございました」

 久住さんと入れ替わりでカウンターに座り、それから返却された本の整理を始めた。

「あ。いいところにいた小柳さん」

 主任が近づいてきて、リストのいくつかを見せてくれながら、児童書をどこに配置するかの相談を始めた。

 いつもの通りの誕生日。

 だけど、何かが違う誕生日。

 しっくりこないのは何故だろう?















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